生体内で使用する人工血管等の高分子材料に高密度配向集積する多機能タンパク質材料を開発するため、構造部位として人工血管内面に集積する基本骨格配列を、天然エラスチンの配列に基づいて設計した。エラスチンに存在する (APGVGV)nや(GVGVP)nといった特徴的な繰り返し配列は疎水性に富み安定な構造を形成するため、疎水性高分子であるePTFEの表面に疎水性相互作用により容易に集積することができる。また元来生体由来の配列を元に設計しているため、生体適合性に優れているという大きな利点がある。一方機能部位として、細胞接着能を有するフィブロネクチン由来のRGD配列、ラミニン由来のIKVAV配列等を利用した。これらの配列はそれぞれ細胞膜表面のレセプターを介して細胞接着することが知られている。血管内皮細胞が生着すれば、血小板の吸着を抑制できるため材料表面に血小板の凝集、血栓形成が起こらず、小口径動脈用の人工血管が構築可能であり、また長期使用に耐え得ることが期待される。 上記の構造部位、機能部位を組み合わせて設計したアミノ酸配列に基づいて遺伝子構築を行い、大腸菌で遺伝子発現が可能な発現ベクターを作製した。このベクターを大腸菌に導入して組換え大腸菌を作製し、目的のタンパク質を得ることができた。得られたタンパク質を、人工血管材料として多用されている疎水性高分子材料表面に集積した。集積状態は抗体を利用した免疫化学的手法により評価した。その結果、タンパク質が疎水性高分子材料表面に、疎水性相互作用により強固に集積できることが明らかとなった。さらに、タンパク質を集積した疎水性高分子材料表面に血管内皮細胞を播種し、観察することにより、優れた細胞接着性を有することが明らかとなった。 以上の結果より、本研究で構築した多機能タンパク質材料は、小口径人工血管を実現するための材料として利用できる可能性が示された。
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