前年度までに明らかになったデータに基づき、エステル交換反応を介して分子量を様々に制御した環状ポリ乳酸を調製した。平成28年度は、この分子量制御された環状ポリ乳酸を直鎖状ポリ乳酸に添加して、その結晶化核剤効果の検討を行った。必要な直鎖状ポリ乳酸については、広く用いられている2-エチルヘキサン酸スズを触媒とした重合法によって調製した。また、使用した環状および直鎖状ポリ乳酸の平衡融点の決定は、現有の示差走査型熱量計(DSC)で行った。環状および直鎖状ポリ乳酸を所定の割合(直鎖状ポリ乳酸に対し環状ポリ乳酸を1-10%添加)でブレンドした試料を調製した。結晶化核剤能は試料中の分散状態に強く依存するので、試料の良好な混合を担保する必要があるので、通常利用される混練法ではなく、溶液キャスト法によってブレンド試料を調製した。現有の加熱冷却が可能なホットステージと高感度・高解像度顕微鏡画像記録システムを用いて、ブレンド試料の静置下における結晶化過程をその場観察した。上記の結晶化直接観察の結果、直鎖状ポリ乳酸に環状ポリ乳酸を添加すると、環状ポリ乳酸を添加しない場合に比べ、結晶核数が著しく増大し、核生成速度が増大することがわかった。また、添加濃度を1%から10%に増加させることによって、結晶核数と核生成速度が増加することがわかった。さらに、このような結晶核数や核生成速度の増大を起こすためには、直鎖状ポリ乳酸の分子量に対して最適な環状ポリ乳酸の分子量が存在することがわかった。以上のことから、直鎖状ポリ乳酸に環状ポリ乳酸を添加した場合、環状ポリ乳酸は直鎖状ポリ乳酸に対して有意な結晶化核剤効果を有することがわかった。
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