研究実績の概要 |
過電圧の小さな酸素発生電極触媒の創成は,人工光合成プロセス (水電解) の効率向上のために欠かすことができない要素である.植物の光化学系IIにおける酸素発生中心はCaMn4O5マンガン4核クラスターで構成され,そこではわずか0.16 V程度の過電圧で酸素発生反応が進行する.この反応過程では,Mnの一部が高原子価V価状態に変化し,これが酸素発生反応の律速段階とされるO-Oペルオキシ結合の形成を促進するため,反応に重要な役割を担うとされる.本研究ではMnVO43-オキソ酸からなるBa3(MnO4)2を電極として用いた際のアノード分極時における酸化反応についての検討を行った. BaCO3, MnO2を化学量論比で混合し,乾燥空気中900°Cで8 h焼成した.再度混合した後,同様の条件下で48 h焼成することでBa3(MnO4)2粉末を得た.Ba3(MnO4)2,カーボンブラック , PTFEバインダーを混合し,15 MPaで一軸成形することでペレット電極を作製した.作製したペレットを作用極とし,過塩素酸ナトリウム中性水溶液中で電気化学測定をおこなった. XRDおよびMn LIII-edge XAS測定より,合成した試料は5価Mn酸化物単一相であることを確認した.作製したペレット電極を用いて電気化学測定をおこなったところ,0.6 V (vs. Ag/AgCl) 付近からアノード電流の立ち上がりが観察された.しかし,アノード分極中に酸素の発生は確認できなかった.また,試料をATO導電助剤と混合した場合には,0.6 Vにおいて電流の立ち上がりは見られなかった.アノード分極時の電極表面をin-situ Raman分光法で観察したところ,アノード電流が流れる電位においてO-Oペルオキシ結合に帰属されるピークが出現した.これはアノード分極によりMnVO43-のO2-アニオンがH2Oとレドックスを起こし,さらにこの反応により生じた強い酸化力をもったMnオキソ酸が,カーボンと反応することでアノード反応が進行していると推測される.
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