2次電池の高エネルギー密度化を実現するために、現在の正極材料の容量を規制している主な要因である酸化還元対を遷移金属だけでなく酸化物イオンも利用することを目指し、分子軌道論に基づいた電子状態の考察を行った。その結果、遷移金属とπ相互作用する酸化物イオンの2p軌道が酸化還元反応に安定に寄与することが期待されることが分かった。実際、そのような2p軌道を持つと期待される酸化物としてNa2Mn3O7に注目し、その電子状態をDFT計算により評価したところ、ナトリウムイオンの脱離挿入に伴って酸化物イオンが安定に酸化還元されることが示唆された。実際、Na2Mn3O7を合成して電気化学特性を評価したところ、4V以上の高い電圧において有意な充放電容量を安定かつ可逆に示すことが分かった。充放電反応中の構造変化を追跡したところ、Mn層とNa層のクーロン引力により層間距離が大きく変化しない特異的な系であることが分かり、この状態変化が安定な充放電反応に寄与していることが示唆された。また、これまでに知られていたMの酸化還元容量と今回見つかった酸化物イオンの充放電容量を併せることで、200 mAh/gに迫る大きな充放電容量を実現することに成功した。また、酸化物イオンの高い充放電電圧を反映し、正極としてのエネルギー密度も極めて大きなものであることが分かった。以上の知見から、酸化物イオンの酸化還元反応容量を有効に活用することで、2次電池の高エネルギー密度化が可能であることが示された。
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