研究課題
本研究では、日常的に発生しているにもかかわらず現状ではほとんど利用されていない低周波振動、特に、島国日本にとって貴重な自給エネルギー源である波浪(10-2~1 Hz)を化学エネルギーとして有効に回収し得るエネルギー変換システムの構築を目的としている。この達成に向け、本年度は、A》 オキシ水酸アパタイト(OHA)エレクトレットの高性能化、B》 帯電/非帯電パターニング形成技術の検討、C》 低周波振動下におけるOHAエレクトレット/電極系の出力評価に取り組んだ。課題Aについては、所定の分極処理条件下において、OHAエレクトレットの表面電位とプロトン欠陥の密度の間に特に高い相関があることを見出し、OHAセラミック基材を作製する際の雰囲気と温度を最適化することで、±4000 Vに至る表面電位を保持するOHAエレクトレットの開発に成功した。課題Bについては、パターン電極を用いた分極処理および分極処理後の金属マスキング(電場シールド)に基づく帯電/非帯電パターニングOHAエレクトレットの作製を試みるとともに、独自に設計した走査型静電気評価システム等を利用して静電パターンを評価した。結果、前者、後者のいずれの手法おいても、OHAセラミック上への帯電/非帯電パターンの形成に至ったものの、後者においては、金属層(電場シールド領域)の影響によって帯電領域と対向電極とのギャップ空間で電気力線の歪曲が生じることが示唆され、この手法が静電式振動発電には不利であることが分かった。課題Cについては、専用の出力評価系を新たに構築し、帯電/非帯電パターニングOHAエレクトレットを素子とする振動発電系の出力評価に着手した段階である。
2: おおむね順調に進展している
課題A、Bについては、既存のポリマーエレクトレットを超える表面電位を有するOHAエレクトレットの作製技術を確立し、帯電/非帯電パターニングOHAエレクトレットの作製に成功したたという観点において順調に進んでいると言える。また、27年度に着手することを計画していた課題Cに関しても、まだ測定データとしては十分に取得できているとは言えないものの、評価系の構築(初期設計から着手)に至っていることから、おおむね順調に進展していると判断した。
A》オキシ水酸アパタイトエレクトレットの高性能化: OHAセラミックの表面ラフネスと蓄積電荷量および表面電位との関係を明らかにする。また、OHAセラミック中のプロトンの拡散現象と蓄積電荷量、表面電位との関係を明らかにする。B》帯電/非帯電パターニング形成技術の確立: 前年度に引き続き、微細加工電極やマスキングを利用した部分分極、分極面の局所加熱による部分脱分極、分極緩和エネルギーの違いを利用した多段階分極や、分極能の低いセラミックスとOHAとのパターン基板への分極処理といった手法の検討を通して、OHAエレクトレット上に帯電/非帯電パターンを形成するための適合技術の選定、確率を目指す。C》低周波振動下におけるOHAエレクトレット/電極系の出力評価と振動発電ユニットの設計: 前年度に構築した評価システムの信頼性向上に向け、構成の最適化を目指す。D》エレクトレットを模した櫛形電極を利用した電極/触媒/含水膜ユニットの最適化: 電極/触媒/含水膜ユニットの作製技術の確立と構成の最適化に向けて、外部電源と接続することで帯電状態を維持させた櫛形電極を図2における帯電/非帯電パターニングエレクトレット素子のかわりに用いた系を試作し、制御された静電場空間のもと、周波数10^-2~1 Hz、振幅1~10 mm程度の強制振動下における水電解の実証試験を実施する。得られた結果を「ステージA」へフィードバックするとともに、電極/触媒/含水膜ユニットの設計に向けた指針を構築する。E》振動駆動型水電解システムの小型モデル機の試作と水素製造の実証試験: 振動駆動型水電解システムの小型モデル機を試作し、周波数10-2~1 Hz、振幅1~10 mm程度の強制振動下における水電解の実証試験を実施する。
物品等の購入に際して、予算と実勢価格との関係上、わずかな差額が生じたため。
物品費に計上する予定である。
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Acta Biomaterialia
巻: 25 ページ: 347-355
10.1016/j.actbio.2015.07.040