研究課題/領域番号 |
15K13811
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
西川 浩之 茨城大学, 理学部, 教授 (40264585)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機薄膜デバイス / 電界効果トランジスタ / 分子性導体 / 分子磁性体 / 常磁性金属錯体 / 磁場応答デバイス |
研究実績の概要 |
分子性導体の主要構成分子であるテトラチアフルバレン(TTF)誘導体が常磁性金属イオンであるCu(II)イオンに配位したTTF-金属錯体,[CuII(EDT-sae-TTF)2]を用いて薄膜デバイスを作製し、電界効果トランジスタ(FET)として作動することを既に見出している。H27年度はデバイス特性の向上を目的として、分子間相互作用を増大させた分子として長鎖アルキル基やベンゼン環が縮環した新しい錯体を新たに合成し、スピンコート法による薄膜デバイスの作製とそのFET特性の評価を行った。FET特性に関しては母体となる錯体の特性と大きな違いがなかった。そこで、H28年度真空蒸着法による薄膜の作製を目的として、新たに4座TTF-配位子とそのCu(II)錯体である[CuII(EDT-bsae-TTF)]を合成し真空蒸着による成膜を試みたが、この錯体も蒸着過程で分解することが明らかとなった。また,Cu(II)イオンよりもスピン多重度が大きなFe(II),Co(II),Ni(II)イオンを用いた新規TTF-金属錯体を開発するため,新たに3座TTF-配位子,ET-H2heip-TTFを合成した。この配位子を用いてCo(II)錯体およびNi(II)錯体の合成に成功した。Co(II)錯体は錯体分子間に存在する水素結合を介して,Co(II)イオンと配位子の酸素原子からなる一次元鎖構造をとり,この一次元鎖をTTF部位がらせん状に巻きついたチューブ構造を形成していた。このらせんは左右両方の巻が結晶中に存在していた。一方Ni(II)錯体はNi(II)イオンと配位子の酸素原子からなるキューブ構造を取っており,極低温で強磁性的相互作用が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エチレンジチオ基を有するTTF-金属錯体[CuII(EDT-sae-TTF)2]は,電解酸化により配位子上のTTF部位が部分酸化されたラジカル塩を与え,比較的高い電気伝導性を示すことを明らかにしている。TTF-金属錯体で配位子部位が部分酸化状態にある物質の報告例は非常に少なく,電導性を示す物質は本研究が世界で初めての例であり,現在,学術雑誌へ投稿準備中である。この錯体を用いた薄膜デバイスはFET応答を示す。この結果は,Molecular Crystals and Liquid Crystals, 641, 81-85 (2016) に発表している。さらに,[CuII(EDT-sae-TTF)2]薄膜のFET特性の向上を目指して,錯体分子の分子間相互作用を増大させることを目的に,長鎖アルキル基やベンゼン環が縮環した新しい錯体を新たに合成し,それらのデバイスのFET特性の評価を行った。この結果は,Polyhedron に投稿し,掲載が受理された。 これまでのデバイスの薄膜作製法はスピンコート法によるウェットプロセスであり,薄膜中のグレインサイズが小さく,そのためFET特性が低かったものと考えている。そこで,真空蒸着法によるデバイス作製を目指して,これまでの2座配位子を4座配位子に変換した,新しいTTF-配位子とその常磁性金属錯体を合成した。この錯体においても真空蒸着中に錯体の分解が見られたが,蒸着条件の検討の余地がある。ひきつづきドライプロセスによる成膜を試みる。また,本研究の大きな目的の一つである磁場下でのFET特性評価については,本予算で購入したソースメジャーユニットでは,ゲート電圧の印加が不十分であったことから,安定化電源を別途購入し,測定システムの構築を行った。さらに,真空中でのデバイス評価を行うための装置の構築を行い,完了次第,磁場下での実験に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
TTF-金属錯体[CuII(EDT-sae-TTF)2]とその類縁体を基盤とする薄膜デバイスが,FET応答を示すことを明らかにし,学術雑誌への発表を行っている。これら錯体の薄膜はスピンコート法により作製しており,AFM測定から均一に成膜できているものの,グレインサイズが非常に小さく,そのためFET特性が低かったと考えている。グレインサイズが大きな薄膜を作製するため,真空蒸着法による成膜が可能な新しい錯体として,4座でCu(II)イオンに配位した[CuII(EDT-bsae-TTF)]をあらたに合成し,真空蒸着による薄膜化を行ったが,蒸着中に分解している可能性が示唆された。引き続きこの物質を用い蒸着条件の検討を行う。H28年度は,より電気伝導性の高いTTF-金属錯体の開発を目指して,TTF部位をTTFよりもπ電子系が大きなテトラチアペンタレン(TTP)に変換した物質の合成も試みたが,TTF-金属錯体の合成法と同様の方法では合成できなかった。スピンコート法などのウェットプロセスを用いた成膜において,グレインサイズのより大きな薄膜を作製するためには,半導体活性層に用いるTTF-錯体の有機溶媒に対する溶解度ならびに結晶性が非常に重要になってくる。TTP-金属錯体は,溶解度および結晶性の観点からは,本研究の活性層として適しているとは言えない。したがって,TTP-金属錯体の合成研究については,これ以上検討を行わない。また,これまでのシッフ塩基型TTF-金属錯体も有機溶媒に対する溶解度も高くなく,また種々溶媒からの結晶性も高くない。同じシッフ塩基部位を配位部位に持つ錯体でもサレン骨格を有する錯体は,溶解度,結晶性ともに高いことが知られている。そこで,サレン骨格を持つTTF-金属錯体を合成し,その薄膜デバイスの作製を行う。H29年度は最終年度であり,磁場下でのデバイス特性の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数である4円が残額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費に加えて使用する。
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