研究課題
リポソームや生体細胞が、形状の整ったミクロンサイズの球状構造体であり、さらに発光性を付与可能であることを利用し、これらを用いた発光閉じ込めと共鳴発光(WGM発光)、およびレーザー発振を実現する目的で、生体分子を用いた発光閉じ込めに関する研究を進めた。まずは、リン脂質としてホスファチジルコリン誘導体(DPPC, POPC)を用い、単純水和法(バンガム法)により、直径が2-10ミクロン程度のリポソームを形成した。その際、蛍光色素としてカルセイン-AMやローダミン-PEを添加した。光学顕微鏡観察より、5-10ミクロン程度の大きさのベシクルが形成していることを確認した。形成したリポソームを基板上に固定化し、顕微蛍光法によりベシクル1粒子に対してレーザーを照射して、1つのリポソームからの蛍光スペクトルを測定した。しかしながら、基板上に滴下した際に、溶媒が溶出して乾燥し、リポソームの形状が変形しまい、期待する発光閉じ込め特性を得ることはできなかった。現在、液中で固定化して顕微蛍光測定を行うシステムについて検討中である。また、円筒状の珪藻累を用い、色素添加後に顕微蛍光計測を行った。しかしながら、こちらも発光閉じ込め特性を得ることはできなかった。藻類の円筒は、光学顕微鏡では非常に整った形状をしているが、微細な凹凸構造が表面に存在するため、光が散乱して閉じ込められづらいものと考えられる。今後、表面形状の平坦化処理や、新たな珪藻類による研究を継続する。
3: やや遅れている
生体組織からのWGM発光自体がこれまでに前例のない研究であることから、共鳴発光が観測されることそのものが大きなチャレンジであるが、現時点ではまだ実現できていない。基板上に固定化することで形状が崩れたり細胞内部の水分が抜けてしまうことから、今後は水中での顕微蛍光測定を行う。その際、レーザートラップ法により、検体を水中でも固定化できるよう検討する。
[1] レーザートラップによる発光性リポソームの固定化と共鳴発光:顕微蛍光計測は通常基板上に試料を固定して行うが、レーザートラップによる光ピンセット法を用いると、水などの媒体中でも試料を固定化して顕微蛍光計測を行うことができると考えられる。利点として、マイクロ球体が基板に接触しないことによる基板接点からの光の漏れがなくなる点が挙げられる。このことにより光の閉じ込め効率が向上し、理想的なWGM発光が観測可能となる。また、リポソームは水を内部に含むため、基板に固定して乾燥すると、徐々に内部の水が蒸発し、リポソームの形状が崩れてしまうが、光ピンセット法では溶媒中での固定化であることから、内部の水の流出を防ぐことができ、より微細で本質的なWGM発光現象を観測できると考えられる。[2] 細胞からの蛍光クエンチャーの除去、および蛍光色素や蛍光蛋白質の導入:リポソームによるWGM発光を確認した後、対象を細胞系に拡張する。また、人工細胞系に蛍光蛋白質であるGFP発現遺伝子を導入し、細胞内においてGFPを産生し、強く緑色に光る細胞を作製する。これらの細胞を用い、レーザートラップ顕微蛍光法による発光計測を行う。[3] 細胞ストレスに対するWGM発光応答、細胞の表面や内部での蛋白質の吸着・凝集状態のセンシング:WGM発光は、媒質の表面荒さや形状、屈折率変化に対し極めて敏感に変化する。この特徴を活かし、細胞センシングに関して研究を行う。WGM発光を示す細胞やペプチドなどを含むリポソーム(人工細胞)に対し、過酸化水素添加による酸化ストレスや熱ストレス、圧力や応力などの機械的ストレス等を加え、細胞内部での蛋白質の凝集、細胞表面での構造変化、さらには細胞そのものの形状変化を誘起する。その際のWGM発光を測定し、WGM発光ピークのシフトや発光強度の低下から、細胞の表面状態の違いや状態変化を検出する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 4件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (40件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (3件)
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