研究課題/領域番号 |
15K13814
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
下村 武史 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40292768)
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研究分担者 |
荻野 賢司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10251589)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 導電性高分子 / 熱電変換 |
研究実績の概要 |
本研究では、有機材料の中で最も高い熱電変換性能が報告されている導電性高分子(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)を発泡させることで、発泡PEDOT:PSSを作製し、無機材料に匹敵する実用レベルの高い熱電変換効率をもったフレキシブルな熱電変換材料を開発することを目的としている。高分子としてはキャリア数の多いPEDOT:PSSの熱伝導率と導電率の関係はおおよそWiedemann-Franz則にしたがうと想定される。しかし、発泡を行うことで、熱伝導率が小さく、大きな熱容量をもった空気とPEDOT:PSSが非常に大きな表面積で接し、界面を通して空孔に流れた熱がそこに蓄えられるため、熱伝導率と導電率の関係はWiedemann-Franz則を打破し、導電率を高く保ったままで、非発泡のPEDOT:PSSに比べて小さな熱伝導率をもたせることを目指す点に本研究の学術的な特徴がある。 初年度は発泡剤の添加による発泡、および凍結乾燥による綿状のPEDOT:PSSを作製し、その材料の熱電変換特性の測定を行った。発泡剤による発泡では非連続性の空孔を有する構造を得ることができた。ただし、フィルムの基板に近い面には空孔がほとんど入らず、表面に近い層のみに空孔が導入されるなどの問題点があり、現在改善を行っている。 一方、凍結乾燥では連続空孔を有する綿状の構造体が得られた。空孔率が非常に高いため、材料のサイズでスケールした導電率は小さいものの、ゼーベック係数も示し、熱伝導率はほとんど空気と変わらない断熱性をもった熱電変換を示す構造が得られた。 現在、超臨界二酸化炭素含浸による発泡に関しても研究を進めている最中であり、圧力や温度の最適化に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では超臨界二酸化炭素の含浸を用いて発泡PEDOT:PSSを作製し、圧力、静置時間を変えながら空孔の有無、空孔率、空孔サイズの変化の計測すること、作製した発泡構造の導電率、ゼーベック係数、熱伝導率を測定し、熱電効果を評価することを年度の目標として設定した。 当初、予定していた超臨界二酸化炭素による発泡はまだ、十分な構造を得ることができず、その点では当初の計画に達していないが、発泡剤の導入および凍結乾燥法の適用により所望の構造の作製および条件による空孔導入率のある程度の制御は達成することができた。また、この構造に関して導電率とゼーベック効果の発現も確認することができた。所望の電気物性の発現を観測することができた点で、当初の予定通りの進展を示している。また、熱伝導の測定も行い、まだ、誤差が大きいものの空気とほぼ同様の熱伝導率をもつ構造を作製することができた点においても、当初の予定を十分達したと考えている。 方法論としては当初の予定と異なる部分があるものの、目的の構造を作製し、その物性が評価できた点から、当初の予定通り順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
導電率の向上に向けた二次ドーパントの導入、ほどよい導入空孔率の決定と制御を実施する。 高い空孔率の導入は凍結乾燥法が適しているが、冷却トラップ温度が高いと二次ドーパントとして一般的なジメチルスルホキシドが溶融してしまい、空孔率が大きく低下してしまう。このため、ドーピング方法や凍結乾燥方法を見直し、綿状構造を保ったままのドーパント導入を行い、導電率を向上する。同時に導電率の低下と、熱伝導率の維持にとってほどよい空孔率を決定し、最適な構造を作製する。 現在検討中の超臨界二酸化炭素による発泡についても引き続き検討する。特に、末端にポリエチレンオキシド鎖をもつPEDOTが本方法論に適していると思われるため、このサンプルを中心に本手法を用いた発泡構造の作製を行う。また、形成した構造の結晶構造など微細なモルフォロジーと発泡条件の関係についても調査する。 最後に厚膜化を行い、デバイスの試作品を作製する。発電能力を測定し、本手法の有効性を示す。厚膜化はすでに凍結乾燥法により実現しているため、デバイスの作製に注力し、発電効率にはまだこだわらないが、実際のデバイスを作製し、本研究に用いた方法論の有効性について評価し、研究をまとめる。
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