研究課題/領域番号 |
15K13816
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐伯 昭紀 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10362625)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機エレクトロニクス / 時間分解マイクロ波伝導度 / 空間分解 / 有機太陽電池 |
研究実績の概要 |
有機エレクトロニクス材料で重要な電荷キャリア移動度の評価法は複数あるが、基板に対して水平および垂直方向の移動度を同時にかつ時間分解で評価することは困難である。しかし、界面電荷輸送でも議論されているように、電荷移動度は界面~バルク間で不連続に変化する分子配列とエネルギー状態に大きく支配される。したがって、有機エレクトロニクス材料の本質的電子物性の解明には、膜深さ方向の空間座標を関連付けできる移動度評価ツールが望まれる。本課題では、申請者がこれまで培ったマイクロ波技術とデバイス移動度評価と融合させ、前例のない2次元時空間分解電荷キャリア移動度評価法(2D-Stream)を開発する。 2年度度は初年度に引き続き、空洞共振器の試作と制御ソフトやアルゴリズムの開発を行った。また、高分子(PCPDTBT)とフラーレン(PCBM)から成る2層膜を石英基板上に作製し、レーザー励起TRMC測定を行った。空間・時間依存の拡散方程式を立式し、数値解析解にパルス形状を畳み込み、既報の速度定数を用いて励起子の界面到達確率を計算で求めた。この結果と2層膜のTRMC結果を併せて電荷分離効率を評価したところ、Face-on界面はEdge-on界面に比べ電荷分離が起こりやすい一方で電荷再結合も起こりやすく、電荷分離と電荷再結合はTrade-offの関係にあることが判明した。太陽電池素子の変換効率としてはEHの方が高いため、全体の素子性能にとっては電荷分離過程の向上の方が重要であることが分かった。また、電荷分離・再結合過程について詳細に検討するため、化学計算で電荷分離・再結合速度を求めた。その結果、配向の違いそのものよりも、アルキル鎖を中間層として挟んだ時のドナー・アクセプター距離が電子移動速度を決定していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の根幹を成す時間分解マイクロ波伝導度(TRMC)装置は、ナノ秒Nd: YAGレーザー(200~1500 nmの間で波長変換OPOユニットを含む)ならびにXe-flashランプからの疑似太陽光パルスを励起源としたシステムが既に稼働している。2D-Streamでは、必要とする時間分解能と材料用途(太陽電池あるいはトランジスタ)に合わせて、単色レーザー(5 ns)と白色ロングパルス(10 μs)光源を使い分ける。後者では、有機太陽電池のデバイス性能評価を反映した伝導度信号をデバイスレスで短時間かつ安定に評価することができる。それぞれの光源を用いた場合の空洞共振器からの信号を比較し、また集光時のサンプルのダメージを観測したところ、信号はレーザーパルスの方が大きくかつダメージも大きいことが分かった。したがって両者はトレードオフであるが、そのため最適なレーザーパワーも見積もることができた。また、電界計算も行い、空洞共振器内の試料位置について最適値を得た。 この2年間の試作と検討によって、空洞共振器の構造については、ほぼ最適な形に収束している。また、デバイスも最適な構造についても、ほぼ固まりつつある。感度は開発初期に比べると大きく向上することができたが、さらに高くなることが望ましい。そのため、様々なノイズ対策や増幅回路の選定と設計を進めている。一方で、試料自身が高い信号を与える方が評価の上で有利であるため、p型n型半導体の2層膜やバルクヘテロジャンクション膜を試料とし、試作機にて評価を行った。その結果、十分な強度の信号が得られ、最終年度に向けて期待できる結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本課題で鍵となる空洞共振器でも、感度(S/N比)とデバイス構造の最適化が最初の主たる課題であるため、これまでの装置開発におけるノイズ低減・信号強度増大に関連する技術蓄積が有効に利用できる。 (1) 2D-Stream用デバイスの作製、(2)空洞共振器の調整、(3) 両者から成る装置の構築と原理実証を行う。この2年間の検討によって、最適な空洞共振器の構造を決定することができ、デバイスも最適な構造についてほぼ決定することができた。最大の問題である感度についても、p型n型半導体の2層膜やバルクヘテロジャンクション膜を試料とすることで、詳細な解析に十分耐えうる精度の信号が得られること確認した。温度変調・周波数変調のオプションも更新を行い、伝導度のアレニウスプロットの傾きから得られる活性化エネルギーを精度よく測定することができるようになった。今後、周波数・実虚部・温度から多面的に電荷分離・輸送過程メカニズムを調べるため、2D-Streamの高周波移行を検討していく。さらに、前例のない評価手法の確立に向け、「感度の向上」「解析法の開発」「ダイナミクスに関わる理論の構築」を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新たに設計した空洞共振器(完成版)の制作を最終年度に行うため、約12万円を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度に繰越金と合わせて新たに設計した空洞共振器(完成版)を制作する。
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