本研究の目的は、利用者の視覚情報を損なうことなく、人の存在や動きを検知する「透明有機赤外線センサー」を開発することである。透明な有機焦電体、透明電極、透明保護膜を積極活用することで可視光線領域で透明で、かつ赤外線領域にはセンサ動作する新規センサを試作し、その基本的なセンサ動作、感度を明らかにする。分子ダイポール制御、輻射赤外線によるセンサ出力など、センサ感度向上にむけた有機焦電体の構造制御、電極材最適化などを通じて、透明センサの構築と感度向上にむけた設計指針を得ることを目指している。 透明な有機焦電体としてはポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレンランダム共重合体P(VDF/TrFE)を用いて、ITO透明電極でサンドイッチすることで透明センサ素子とした。作製した素子は可視光域において60~80%の透過率を示し、目視レベルで十分透明であった。また作製した素子に赤外線を入射した際、赤外線のON/OFFに伴う明瞭な焦電応答が観測され、透明性を有する焦電型赤外線センサの駆動を初めて確認した。センサ感度の波長依存性と感度向上に向けた設計指針を明らかとするため、光源から出射された輻射赤外線を分光器により単色化し、入射赤外線の波長に対する透明有機赤外線センサーの応答感度を評価した。その結果、センサ感度はセンサ構造内におけるファブリペロ干渉由来の赤外吸収曲線とほぼ一致することが明らかとなり、測定目的とする赤外線波長域においてセンサ感度を最大化するには、センサ構造(焦電体膜厚、電極膜厚など)の制御が有効であることが分かった。試作センサーの電圧感度は700V/W(@1Hz)以上を達成し、透明有機赤外線センサーの実用可能性を十分に示した。
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