研究課題/領域番号 |
15K13827
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米谷 玲皇 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (90466780)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 先端増強ラマン分光 / ナノ振動子 / 動ひずみ / 位相分解計測 |
研究実績の概要 |
本研究は、先端増強ラマン分光(TERS)を応用し、ナノ振動子の動的に変化するひずみの局所位相分解計測を可能とする計測技術の創出を目的としている。これを達成する方法として、TERSにおけるラマン散乱励起レーザー光を振動子の加振周波数で変調させ、振動位相に同調し放出される散乱光を検出しスペクトルを得ることが、有効な手法になりえると考えている。しかし、レーザー光をパルス化し用いることから、単位時間当たりのラマン散乱強度の低下が予測される。そのため本年度は、TERSプローブの形状,材質を工夫することによるラマン散乱強度増強を狙い、その礎となる、金属ナノ構造による光束誘導に関する研究を行った。 金属ナノ構造の形状を工夫し、プラズモン励起に偏りを持たせ、光束・電場を任意方向に誘導するというのが提案する光束誘導の原理である。金属ナノ構造の形状,材質の検討は、有限差分時間領域法(FDTD法)により行った。本研究では、実験評価が容易なSi基板上での光束誘導を想定し検証した。結果として、波長785nmのレーザー光を用いる場合、上底,下底(凹部幅),高さがそれぞれ400nm, 980nm, 760nm,厚さ100nmのAuからなる楔形構造が光束誘導に有効であることを見出した。この楔形構造の上底から凹部に光束が誘導される。この楔形構造を電子ビーム露光,リフトオフプロセスを用いて作製し、ローダミンB(濃度1×10-2M)の表面増強ラマン(SERS)測定を行うことで、間接的に電場増強を可視化し、光束誘導性を評価した。結果として、FDTD法により計算した結果と一致し、楔形構造が光束誘導に有効であることを確認した。この結果は、楔形構造体をTERSプローブに組み込むことにより、TERSプローブによるラマン散乱強度増強が可能であることを示唆するものであり、局所動ひずみ位相分解計測の達成を期待させるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、TERSプローブにAuからなる楔形構造体を組み込むことにより、ラマン散乱強度を増強させるTERSプローブを作製できる可能性を示した。ラマン散乱強度の増強は、前述したようにその単位時間当たりのラマン散乱強度低下が予想される動ひずみの位相分解計測において重要な要素の一つであり、これを行うための指針が獲得せれたことは、本研究推進において非常に価値が高いといえる。またプローブによるラマン散乱強度増強は、本研究のみならず、物質,材料評価技術であるTERSを高度化するためにも有効であり、技術的価値も高いと考えられる。さらに、本研究で提案した楔形構造体の機能は、高速を誘導し、電場を増強させることであり、本研究で目的とするTERSプローブ機能化の他、この光束誘導性を利用した平面レンズ作製や、微量物質評価のためのSERS測定などにおいても応用が考えられ、様々なアプリケーションヘ応用可能と期待される。これらのことから本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平成27年度において獲得した知見をベースに、ラマン散乱強度増強を目的としたTERSプローブ機能化に関する研究を継続して行い、動ひずみの高感度位相分解計測を実現する計測系の構築を進めるとともに、ナノメカニカル振動子の動ひずみ,応力状態の定量化を狙い、その材料物性や共振特性,動ひずみの関係性の詳細な評価を行う。具体的には、ナノメカニカル振動子として、シリコンやdiamond-like carbon (DLC), グラフェンから作製された数MHzから数100MHz程度の共振周波数を有するメカニカル振動子を対象とし、アニール処理によりこれらナノメカニカル振動子の結晶再配列や格子ひずみを制御、引張応力を段階的に印加し、共振特性や動ひずみ,ラマン散乱スペクトルとの関係性の評価を行う。これにより、本研究で提案するTERSを応用したナノメカニカル振動子の局所位相分解動ひずみ計測技術の定量化に必須の動ひずみとラマンスペクトルの関係性の明確化を行う。動ひずみ,応力状態の定量計測は、ナノメカニカル振動子を信頼性の高い素子として応用するために必須であり、本研究を通し、ナノメカニカル素子研究開発に資するより高度な計測技術創出を目指す。
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