本研究は、先端増強ラマン分光(TERS)法等のラマン分光技術を応用し、ナノメカニカル振動子構造体のひずみの局所計測を実現する計測技術の創出を目的としている。 今年度は、これを実現する上でキーとなる顕微レーザーラマン分光法のナノメカニカル構造体のひずみ評価への適用性の評価を行った。具体的には、顕微レーザーラマン分光法の分析深さよりも薄い、およそ50 nmの厚さを有するシリコンナノメカニカル振動子構造体に、引張り,及び曲げのひずみを印加し、シリコンに由来するおよそ520 cm-1のラマンピークの検出特性を評価した。 引張方向のひずみについては、これまで報告されていたシリコン基板等にひずみを印加した場合と同様に、ひずみ量にピーク位置が依存する結果となった。曲げ方向については、メカニカル構造体の厚さが、顕微レーザーラマン分光法の分析深さよりも薄くなると、構造体表面の圧縮応力と構造体裏面の引張応力の効果がラマンピーク上に現れ、それぞれの効果によりピークシフトが相殺され、ラマンピーク位置に顕著な変化は見られないことがわかった。一方で、ラマンピークの半値幅はひずみ量に依存し、ひずみが大きくなる従い、半値幅が増加することを見出した。これは、薄膜メカニカル構造体の場合、分光法の分析深さを考慮すると深さ方向のひずみ分布が一様ではないことから各深さでのピークシフトが積算されピーク半値幅に影響を及ぼしたと考えられる。この結果は、ラマン分光法を用いてその分析深さよりも薄いメカニカル構造体のひずみを評価する場合、ピーク半値幅による評価が有効であることを示している。本研究で獲得した成果は、ナノメカニカル振動子構造体の局所ひずみ計測を実現する上で、有効な知見になると期待される。
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