研究課題/領域番号 |
15K13851
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研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
谷口 幸典 奈良工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (10413816)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 粉末成形 / 絞り加工 / 個別要素法 / マイクロフォーミング |
研究実績の概要 |
精神的苦痛を伴わない革新的な癌治療法を微細ものづくり技術で実現したい.癌細胞を,患者の身体的・精神的ストレスを最小限にしつつ効果的に死滅させることができる世界初のマイクロカプセルインプラントを用いた磁気温熱治療法を提案し,その実用化を目指す.インプラントとなる磁気発熱体として,粉末を封入したチタン製マイクロカプセルの製造手法を確立しなければならない.そこで,Ⅰ.代表者が発明した特許「粉末を媒介した絞り加工法」を発展活用し,チタン箔を直径0.8mm以下で長さ3mmに絞り込むと同時に内部への磁性粉末の封入を図る.次に,Ⅱ.生体内を模擬した寒天ファントム内での発熱特性を調査することで,外部より交流磁場を印加した際に癌細胞の死滅温度である43℃を安定して発熱できるかどうか,その条件を検証していく. 平成27年度はその成形メカニズムを調査・解明するための基礎実験ダイセットの設計試作,ならびに卓上精密万能試験機を導入し,チタン箔の微細絞り加工において長尺のカプセルを得るための成形パスを実験的に調査した.並行して,粉末粒子が固化しつつチタン箔を微小なダイ孔に押し込んでいくメカニズムについて,個別要素法による成形シミュレーションでその原理を理論的に再現し,長尺なカプセルを成形するための最適な工程設計を進めた.結果,以下の結論を得た. (1)絞り深さの増大のためには,少ない負荷回数で高い負荷荷重とするよりも,最終荷重値までの荷重増分を小刻みにとり,その間に粉末層の再舗装を繰り返すことが有効である. (2)個別要素法による解析で,チタン箔の板厚減少部など,定性的に実験と同じ現象が再現でき,ダイ穴径に対してある程度大きなパンチ径,かつ,直径30ミクロン程度の細粒を用いることで絞り深さが増加する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
絞り深さは成形圧力の増加とともに直線的に増加し,最終成形圧力までの回数が多いほど長くなる.また,粉末層は一度の負荷でチタン箔を絞り出すには十分な分量ではないこと,少なくとも二回の粉末再充填によって絞りが促進されることがわかった.このように逐次粉末を充填~加圧する段階負荷が有効で,荷重増分が粉末の固化挙動と適合してしわ押さえ力が適度となり,絞りカップ部への粉末粒子の流動が生じることで,これを繰り返すことで長い絞り深さが得られるメカニズムを解明できた.直前の負荷で圧密固化した粉末層が絞りカップ部へ流動するには荷重増分が必要であり,同一荷重の繰り返しは絞り深さの増大には大きく寄与しない.より長い絞り深さを実現するためには,荷重増分を小刻みとして粉末再充填回数を増やすことで粉末層の圧密固化挙動を制御し,チタン箔のフランジ部のしわ抑えの適正化を図ることが重要であることが示唆された.ただし,本プロセスの微細化を順次図ることについて,目標とした直径0.8mmのカプセル試作を行うまでに至っていない.これは,個別要素法による数値解析において,粒子の相互作用に関する適切なパラメータ設定が必要となり,金属粉末粒子に関してそれらを同定する方法は実験的にも理論的にも明確に定義されておらず,実験結果と照らし合わせながら試行錯誤的に行う必要が生じたためである.これに当初の予測を上回る時間を要したので,実験におけるプロセスの微細化に関してまとまった知見を得るには至っていない.しかし,妥当と思われるチューニングを見出しており,現段階での実験面での遅れは今後十分に取り戻せる.
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今後の研究の推進方策 |
現在,直径1.0mmの絞りダイについて,最適なダイ肩部テーパ角度を数値解析によって見出している.これについて順調に知見が得られており,適切なテーパ角度の直径0.8mmの絞りダイが完成次第,試作カプセルの生産に入る.並行して,磁場環境内でも高精度に温度計測が可能な蛍光式光ファイバー温度計(安立計器:FL-2000,FS-600)を新規設備として導入することで,生体模擬ファントムを用いて,外部より高周波交流磁場を印加した際の試作カプセルの発熱特性評価装置を構築する.試作した磁性粉末マイクロカプセルについて,周波数250kHz,~1000Wの出力でカプセル周辺部を目標値である43℃に加熱・保持することが可能かどうかについて調査し,磁気温熱治療法としての有用性を立証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
微細絞り加工ダイセット構成部品一式に充てることを予定したが,数値解析において当初の予想を上回る時間を要し,ダイセットの設計仕様について未設計のパンチが未購入となっているため.
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次年度使用額の使用計画 |
数値解析による微細ダイセットの設計を早急に終了し,微細形状パンチや治具の購入に充てる予定である.
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