流体潤滑状態とは油膜を介して非接触摺動を実現している状態を指し、機械摺動面において最も望ましい潤滑形態とされている。しかしながら、油膜の厚さが極限まで薄くなったときの流体潤滑特性に関しては、あまり多くの研究事例がない。そこで本研究では、ナノメートルオーダのすきまを有する流体潤滑状態に焦点を当て、その油膜状態と潤滑特性を調査することとした。 対象とするテクスチャ形状の創成には、京大ナノハブ拠点のMEMS製造装置を用いた。はじめに、コロイドプローブAFMを用いて流体潤滑状態での動圧発生効果を調べたところ、接触面積が小さく、動圧発生効果がほとんど見られなかった。よって、相手面を直径3/8インチの軸受用鋼球に換え、特に、スクイーズ運動下におけるナノメートルオーダの油膜形成状態に着目して試験を行うこととした。テクスチャ形状はマイクロディンプルとし、ディンプル径40um、ディンプル間ピッチ80um、ディンプル深さ500nmとした。 ディンプルありディスクを用いて試験を行った場合、接触円中心近傍に閉じ込め油膜は確認されなかったが、振動数の増加に伴って厚い油膜領域の面積が大きくなる傾向が見られた。また、閉じ込め油膜が形成される条件を除けば、ディンプルがない場合に比べてディンプルがある場合のほうが油膜体積が大きくなることが分かった。これは接触円のちょうど外側に存在するディンプルの影響であると考えられる。ディンプル近傍においては、ディンプルが油溜まりの役割を果たすため除荷工程における負圧が現れにくく、気泡が発生しにくくなる。よって、ディンプル付近の油膜が一様に厚くなることが分かった。
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