研究課題/領域番号 |
15K13870
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 滋 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60271011)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多孔質媒体 / クヌーセン拡散 / 気体分子運動論 / 古典的電子伝導論 / 相反性 / 灰色モデル |
研究実績の概要 |
計画にしたがい,下記の細目課題についての研究をまず実施した. 1. クヌーセン気体の熱遷移法則に対する実験データの再現性の検討. 2. 上記法則の多孔質内温度分布に対するロバスト性と普遍性の検討. 境界との衝突効果を境界条件としてではなく衝突積分として方程式内部に取り入れるのが提案モデルである.衝突頻度に速度方向依存性を与えない最も単純な媒質を想定して,まずクヌーセン気体の熱遷移法則を調べた.これは圧力や温度が異なる2つの貯気槽を毛管や多孔質でつないだとき,圧力駆動と熱駆動の流れが相殺して釣り合うときの圧力比と温度比の間の関係のことである.両者の間に媒質との衝突頻度に応じたべき則が成り立つことを見出した.また,このべき則は媒質の温度分布の詳細にはほとんどよらないロバスト性を示した.これらの検討事項は,提案モデルに対する最初の試金石であり,計画当初に期待された予想に対して肯定的な結果が得られたことを意味しており,モデルの有用性に明るい見通しを与えている. 以上の結果は提案する運動論モデル方程式を差分法で数値解析した結果にもとづいている.この数値解析の結果をさらに詳細に検討するために,媒質との衝突頻度が高い場合の漸近解析を行った.衝突頻度が高い場合には媒質内の濃度分布が拡散方程式にしたがうこと,また異温度の媒質の接合面に境界層が発達すること,またそこにおける物理量の接続条件を明らかにした.境界層の構造を定める空間一次元半無限領域の要素問題を特定し,その数値解を求めることで,種々の条件下での密度場を記述する拡散方程式型の縮約モデルを確立した.一方,この要素問題はいわゆるMilneの問題の亜種であるが,その解の数学的な意味での性質の検討は未知のまま残されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績欄に記載のとおり,初年度目的である 1. クヌーセン気体の熱遷移法則に対する実験データの再現性の検討, 2. 上記法則の多孔質内温度分布に対するロバスト性と普遍性の検討, を順調に消化しているため.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果を受けて,気体分子の(多孔質内壁に対する)衝突頻度に方向依存性を取り入れる解析に進む.この解析には差分法よりも粒子法の方がよく馴染むし,直感的にもわかりやすい.実装も粒子の飛行方向を考慮して衝突頻度を変えるだけなので単純である.この開発のための準備として粒子法を使って初年度の成果を再現するテストをまず行っている.これからの主な目的は,易動度の方向依存性を用いた空隙路の再現性の検討である.まず,衝突頻度の方向依存モデル(異方モデル)によって,媒質内に実効的な流路,遮断路が作られることを確認したい.さいごに内壁表面積と空隙率を指標として提案モデルに多孔質の輸送特性を反映する道筋を探る.
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は次の3点である.(1)当初,当計画に必要な助言を得るため,国外研究者の招へいを予定していたが,スケジュール調整がつかず,次年度に持ち越しになったこと.(2)代表者の国外調査旅費が,受け入れ側機関の一部負担援助もあり,予定より少額で済んだこと.
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次年度使用額の使用計画 |
主な使用予定は次のとおりである.(1)持ち越した国外研究者の招へいを次年度早々に実施する.(2)代表者の国外調査の実施経費に充てる.(3)計算の大規模化に対応して,計算機メモリー,HDDの増設経費に充てる.(4)計算機センターの計算機使用量に充てる.
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