本研究ではプラズマ放電による高活性な反応場を利用して,ベンゼンやトルエンの芳香族炭化水素と水蒸気を反応させ,1段階プロセスでフェノールの合成する方法を提案し,実験的,解析的なアプローチを行った。27.12MHzの高周波プラズマを使ってトルエンと水をエマルジョン化して,プラズマ環境下で反応させる実験を行った。その結果,中間生成物としてベンジルアルコール(C6H5CH2OH),ホルムアルデヒド(HCHO)が生成されることを明らかにした。本実験で得られたフェノールの収率は0.0038%である。これらの結果は,量子化学計算ソフトウエアであるGaussianを用いた理論計算から,トルエンとOHラジカルが作用し,4段階の反応を経てフェノールが合成する反応経路であることを説明した。フェノールの収率を向上させる目的で原材料をベンゼンに変更して,誘電体バリア放電(DBDプラズマ)を利用し,大気圧非平衡プラズマジェットを発生させ,ベンゼンの合成を試みた。その結果,フェノールの収率は向上し,最大30%のフェノールの収率を得ることに成功した。トルエンを原料としたプラズマプロセスによるフェノール合成では,トルエンのメチル基とOHラジカルの置換反応を促進するための触媒の導入が必要である。一方,ベンゼンを用いた場合は高い収率でフェノールを合成できる。 次に,プラズマの高活性な反応場を利用して,フィッシャー・トロプシュ法(FT法)を誘発させて,液体炭化水素を合成する実験を実施した。金属触媒を使用して,メタノール中で液中プラズマを発生させると,直鎖状のアルカンが生成した。プラズマ分解によって発生する一酸化炭素と水素によって,液体炭化水素の合成が期待できる。
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