研究実績の概要 |
CO2を大気から隔離し海洋に貯留する地球温暖化対策技術は、地中に隔離するそれの1万倍程度の処理能力を有している(Bergman, 2000)とされている。深海底ではCO2ハイドレートとの呼ばれる包接水和物が生成し、それを応用する技術はCO2を長期間安定して貯留できると期待されている。代表者らの先行研究はこれまで、ハイドレート膜厚を計測する一方で、物質輸送に基づいたマクロスケールの膜厚予測モデルを構築してきた。その結果、ハイドレート生成時の膜厚は、CO2溶解度の二元性に基づき、水中の濃度境界層内におけるCO2過飽和量が膜厚を支配する可能性を示唆した。また成長予測モデルにおいても、膜内の分子拡散係数に大きく依存し、予測結果が計測膜厚と良い一致を示す所まで行っている。しかし、膜生成に伴う周囲のCO2濃度場変化は明らかとなっておらず、また膜内部の分子拡散挙動は未だ明らかとなっていない状況である。 CO2ハイドレート膜を伴う液体CO2溶解実験の結果、溶解水中におけるpH分布(CO2濃度相当)の時間変化を取得し、膜生成時のCO2拡散係数を推算することで濃度場を定量評価できる可能性を示した。さらに、pH指示薬の種類により、水側からCO2側への物質移動を観測し、マクロスケールの実験からミクロスケールの膜内分子構造が推測できる事を示した。また液体CO2領域および溶解水領域の体積時間変化から膜内の分子拡散係数の推定し、本研究グループで実施している分子計算結果との比較検討を行った。 これらの成果は、ハイドレート膜生成に伴う周囲CO2濃度場変化から膜生成時の非定常状態モデルを構築するとともに、膜内部のCO2とH2Oそれぞれの拡散性を詳細に計算できることを示すものである。加えて実験結果と計算結果のそれぞれを融合することで、非定常性を考慮し、かつ分子スケールまで考慮した膜厚予測モデルを構築するものである。
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