研究課題/領域番号 |
15K13882
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野崎 智洋 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (90283283)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノマイクロ熱工学 / フォノン / 熱伝導 / 界面 / シリコンナノ粒子 / 熱電発電 |
研究実績の概要 |
基本技術の獲得を目的として,汎用ポリマーの1つであるポリスチレン(-(C8H8)n-)とシリコンナノ結晶(SiNCs)のコンポジット薄膜の合成に成功した。ポリスチレン(PS)はトルエンなどの溶媒に可溶であるため,溶媒/ポリスチレン/SiNCsの3つの基材をブレンドしたシリコンインクを作製できる。ポリスチレンは結晶性,分子量を幅広く変えられるため,モデル汎用ポリマーとして選定した。 SiNCsの平均粒径は6nmで固定し,膜厚(1-10μm)をパラメータとして薄膜を合成する基本技術を確立した。薄膜の形成には,再現性の高い成膜が可能なスピンコート法を用い,SiNCsが約50wt%まで均一な薄膜を合成できた。SiNCsの含有量がさらに増加すると膜厚が均一なコンポジット薄膜の作製が困難になった。熱伝導率の計測には豊富な実績があるTWA法(Temperature Wave Analysis)を用いた。この方法は取り扱いが容易で再現性の高い分析ができるため,高分子をはじめ多種多様な材料でその妥当性が検証されている。一方,この方法は非定常法と呼ばれるもので,直接測定できるのは熱拡散率(m2/s)である。よって,コンポジット材の比熱(J/kgK)と密度(kg/m3)を別途測定し,熱伝導率の推定に用いた。コンポジット材の熱伝導率を予測する経験式は多数存在するが,そのほとんどは個々の材料の熱伝導率,充填率,充填材の形状をパラメータとしている。しかし,量子サイズ効果やナノ界面によるフォノン散乱などの影響因子はほとんど考慮されていない。その結果,本研究で開発した低熱伝導薄膜は,従来の経験式では予測することができず,SiNCsを添加するほど熱伝導度が低下する結果となった。すなわち,SiNCsを用いたコンポジット材の熱伝導率は,SiNCsとPSが形成するナノ界面ネットワークにおけるフォノン散乱がその要因であることを実験で実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画より大きな進展があり,ナノコンポジット材の熱伝導率の測定だけでなく,従来のバルク材を用いたコンポジットでは発現しない,ナノ界面によるフォノン散乱を顕在化させた低熱伝導材料の開発に成功した。 SiNCsの重量混合比50%までは膜厚が均一な薄膜を形成することに成功した。さらに,TWA法による熱拡散率の計測,およびコンポジット材の比熱,密度の計測も別途実施し,コンポジット材の熱伝導率の計測に適用した。SiNCsの熱伝導率はポリスチレン(PS)よりも高いため,一般的な経験式ではナノコンポジット材の熱伝導率はPSの熱伝導率より高くなることが予測される。しかし,結晶サイズが10nmより小さいナノ結晶では,粒子が形成するナノ界面ネットワークにおけるフォノン散乱効果が顕在化するため,PSよりも低い熱伝導率を有するコンポジット薄膜の開発に成功した。これは,従来の予測式では考慮されてこなかった影響因子(界面のフォノン散乱など)を反映していることに他ならず,さらにそれを実験により実証することに成功した。一連の研究成果は既に投稿済みであるが,それに先立ち検討したSiNCsの合成および熱電材料としての物性評価に関する成果は,材料科学分野で権威ある学術雑誌(ACS applied materials & interfacesなど)に数編掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究で明らかになった課題として,SiNCsの充填率増加と分散性向上があげられる。現在は水素終端したSiNCsを用いているが,溶媒との可溶性が低く粒子の凝集が生じやすい。そのため,膜厚が均一で平坦な薄膜をスピンコードで得るためには,SiNCsの重量割合を最大で50wt%に抑えなければならない。これを克服するため,SiNCsの表面をC6以上のアルケンで表面修飾し可溶性を高める方法を開発する。これにより,ナノ粒子の最密充填である74%まで充填率を高めたコンポジット材を開発し,同様に熱伝導率を評価する。また,熱伝導率の評価には,現在用いているTWA法(非定常法)を基盤としながら,直接的に熱伝導率を得る3ω法を併用し,熱物性値に関する測定結果の信頼性を検証する。 これまでの研究で,ナノ界面ネットワークにおけるフォノン散乱の重要性は明らかとなったが,個々の粒子に起因する因子,例えば結晶性や表面化学状態などと熱伝導率の関係は充分に明らかとなっていない。例えば,表面酸化された粒子は比熱が増大するため,熱伝導率が大きくなることが予想される。また,表面の化学状態を変えることでSiNCsの密度が影響を受ける場合もある。さらに,アモルファスSiナノ粒子では,熱伝導率がさらに低下することが予行される。このような,ナノ粒子本来の熱物性値に起因した影響因子の抽出および物性制御についてさらなる検討を進める。 シリコンナノ粒子の合成と物性評価に関して,研究協力者(中国・浙江大学・Xiaodong Pi教授)と国際共同研究を継続的に実施する。
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備考 |
香川高専で特別講義(2015年1月)。
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