これまでの研究で,平均粒径約6 nmのシリコンナノ結晶(Silicon Nanocrystals: SiNCs)を水素終端したものをポリスチレン(PS)に分散させたナノコンポジット薄膜を新規に開発した。SiNCsの熱伝導率はPSより約1桁高いにもかかわらず,SiNCsを分散させるほどコンポジット材料の熱伝導率が単調に低下することを確認した。これは,SiNCsとPSの界面熱抵抗(Thermal Boundary Resistance: TBR)が顕著に増大したことに起因しており,界面熱抵抗を考慮したKapitzaモデルにより説明できる。結晶性が低いアモルファスシリコンナノ粒子を用いた場合,結晶性の違いによる熱輸送特性にほとんど差は生じなかった。つまり,シリコンナノ粒子と高分子の界面に形成される大きな熱抵抗により,熱輸送を担うフォノンがナノ粒子を回り込むように高分子のナノ構造ネットワークを輸送され,見かけの輸送距離が長くなることで熱輸送能が低下したと説明できる。また,フォノンの平均自由行程は10 nmより十分短いため,ナノ粒子によるフォノン閉じ込め効果は生じていないことが推察された。 表面を水素終端したシリコンナノ粒子は高分子の中で相分離をおこし,凝集しやすいことが明らかとなった。ナノ粒子の充填率が高くなると,粒子の凝集体が高分子内に詰まった構造を呈するため,ナノ粒子が概ね均一に分散した状態と見なすことができる。しかし,充填率が低くなると凝集体が離散的に分布するようになり,Kapitzaモデルでは説明できない熱伝導率の低下を示した。このことを調べるため,ナノ粒子の表面を1-ドデシン(アルケン)で表面修飾したコア・シェルタイプのナノ粒子を合成した。ナノ粒子の分散性を高めることで凝集が熱輸送特性に及ぼす影響を明らかにし,ナノコンポジット材料の熱伝導予測モデルを構築した。
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