研究課題/領域番号 |
15K13896
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 健太郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (20242315)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超音波モータ / 摩擦駆動 / 潤滑 / 効率 / トルク / 圧電振動子 |
研究実績の概要 |
本研究は、従来乾燥摩擦が用いられてきた超音波モータの振動子・ロータ界面(駆動面)に潤滑剤を導入することで、モータ効率や寿命を改善しようという研究である。 本年度は、昨年度に引き続き、摩擦を制御する振動と駆動力となる振動を独立に制御できる複合振動子型超音波モータを対象に検討を行った。直径25 mmの回転型について、摩擦駆動面をセラミックス材料とし、現実的なロータ加圧力で有意な実験結果が得られるような接触面積を考慮した接触部とした。 導入する潤滑剤として、昨年度と同じく、自動車用自動変速機に利用されるトラクションオイルを用い、粘性や添加物が異なる試験用オイルを多種類準備した。昨年度のモータ負荷試験結果から効率などの特性が向上する駆動条件付近においてより詳しい検討を行った。従来の乾燥状態で印加されているロータ予圧では、潤滑状態の特性は高くはないが、ロータ予圧を増大させることで、潤滑状態において優れたモータ特性を発揮することが確かめられた。駆動電圧などの条件にも依るが、乾燥時の3-4倍の予圧により、乾燥時に20-30%であった駆動効率が40-70%に向上した。最大トルクは2倍程度、無負荷回転数は20%程度向上した。 また、ロータとステータの接触部材質について、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素を試し、特性の比較を行った。電子顕微鏡による観察を行い、損傷の状態や程度を調べた結果、酸化ジルコニウムを用いたときが最も摩擦面の損傷を抑制することができた。使用した材料の仕上がり等の影響を十分排除することは現時点では難しく、その損傷メカニズムの解明には至らなかった。 また、進行波型超音波モータにおいても同様な実験を行ったが、円板のたわみ振動を利用した進行波型では予圧を増大すると振動が抑制されてしまうため、潤滑剤の効果が発揮される領域での動作は難しいことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画時に期待したモータ特性の向上が、大きな予圧をかけることで実際に確認できた。また、性能向上について安定したデータを比較的広い動作条件下で系統的に調査できたことは本年度の成果であると考えられる。この結果をまとめたものを電子情報通信学会・超音波研究会において発表することができた。 また、ロータ・ステータ界面の材料として4種類の材料をについて、損傷状態を比較検討したことで、これまで得られなかった知見を得ることができた。 一方、たわみ振動を用いた一般的な進行波型超音波モータでは、大きな予圧のために超音波振動自体が抑制されてしまい、潤滑剤の効果を発揮できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、超音波モータの摩擦駆動面に潤滑剤を加えた場合の動作について広範なデータを取得することができた。本研究の最終年度として、動作条件を見直して、さらに必要なデータを取得することと、これまでのデータの整理を行う。 また、潤滑面で超音波振動の1サイクルの間にどのようなことが起きているのかを観察することについて検討したい。これまでに原理を試験した光学的な手法等の結果を解析して有意な解釈を行いたいと考えている。 進行波型超音波モータについては、従来の構造では原理的に潤滑状態での動作は困難であることが分かってきたので、接触面積の大幅な削減など、振動を抑制しない予圧での動作について検討をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費が予想よりも廉価に済んだこと、調査などのための旅費を本経費から支出せずに済んでいることが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
実験とまとめを推進するために、昨年度途中まで本研究の一部を補助したポスドク(現在、海外研究機関にてポスドク)を短期間招き、データ取得と整理を行う。
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