研究課題/領域番号 |
15K13900
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
井上 喜雄 高知工科大学, 総合研究所, 教授 (50299369)
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研究分担者 |
立花 邦彦 高知工科大学, 総合研究所, 助教 (10747794)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 機械力学・制御 / 省エネルギー / 油圧システム / エネルギー回生 / PWM制御 |
研究実績の概要 |
まず,パラメータの影響が把握できる方法について検討した.バルブの切換え周波数が負荷と配管系からなる低次の固有振動数よりも十分高くかつ管路系の1次の固有振動数の1/4以下の条件に対して,油を剛体と見なした1自由度系の理論解をベースとした計算法を導出し,パラメータの影響について検討した.その結果,管路の等価質量と切換周波数の積を流体抵抗で除したものが現象を支配する重要なパラメータであることが確認できた.しかし,それよりも高い周波数では,管路系の固有振動数の共振などが問題となり,基本周波数だけでなく,2次,3次の高調波が共振にかかれば流量変動が大きくなり高圧源から配管系への逆流も発生することがわかった. 圧力の変化によりサイドブランチの固有振動数が変化し,周波数がずれることに対する対策としては,サイドブランチ固有振動数変化を圧力計測によりリアルタイムで推定し,切換周波数をそれにあわせれば,サイドブランチの効果を維持することが可能であることがわかった. 実験装置については,モデル化の妥当性検証のための基礎実験装置の設計を完了し,製作を開始し,納期が遅れている部品を除いて完成した. 当初計画にはなかったが,平均的な現象に対しては非線形減衰を考慮して計算し,振動的な現象については管路の弾性を考慮するものの大胆な近似による理論解とモード解析を組み合わせ周波数領域で応答計算する方法,およびエネルギー回生率と平均回生率と振動回生率に分離して評価する方法を新たに開発した.その結果,共振が問題となる切換周波数でも,また,油圧シリンダと負荷を有するような実際的な油圧システムであっても,近似はあるものの,現象を理解し回生効率の対する各パラメータの影響などの見通しを得ながら検討することが可能となった.このことにより,効率的なエネルギー回生システムを指針をもって設計する技術の骨組みが得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験装置の製作が一部の部品の納期遅れなどにより計画よりもおくれている一方,当初計画にはなかった近似理論解とモード解析を応用した新たな応答解析手法および新たな回生率の評価法を開発することができたことにより,近似ではあるが,現象を理解しつつパラメータの影響が的確に把握できるPWMによる油圧システムのエネルギー回生技術の基本設計技術確立の重要な手がかりが得られた.したがって,総合的には,ほぼ計画通りかそれ以上であると考えられる. 得られた方法では,管路は連続体としてあつかい,シリンダおよび負荷による自由度の増加や,バルブの非線形減衰も考慮できることから,大胆な近似を行っているものの,現実的なシステムにも対応可能であり,管路の等価質量,管摩擦,バルブ減衰,付加質量,切換え周波数,デューティー比などが平均回生率と振動回生率にどのように寄与するかについて見通しを持ちながら検討することが可能となった.したがって,今後これをブラッシュアップしていけば建設機械などで使用されるレベルの複雑な油圧システムの回生性能検討のための基礎技術が得られることが期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であり,PWMを用いた油圧システムのエネルギー回生の基本メカニズムおよびパラメータの影響度を明らかにし,エネルギー回生を効率的に回生するためにはどのように設計すればよいかを示す設計指針を得ることをねらう. 納品が遅れていた部品がそろえば,基礎実験が可能となり,実験により圧力の応答を計測しモデル化の妥当性の検討を行う.また,応答に重要な役割を果たす切換バルブについてはストロークの時刻歴応答を計測し,バルブの高速切換特性を把握するとともにこれまで仮定してきた理想的な開閉との違いや,開度の変化をフーリエ級数展開しどの程度高調波が含まれているかを明らかにする. 計測したバルブの応答波形を用いて,27年度に開発した有限要素法ベースで詳細なモデル化が可能な過渡応答計算法による計算を行い,実験での圧力の計測結果との比較により詳細モデルでのモデル化法を修正する.それらの結果とモード解析を用いた手法で仮定していた理想的なバルブ開閉の場合との差を明らかにする.その結果を参照し,28年度の成果であるモード解析を用いた方法の高度化として,有限要素法ベースの詳細計算法との融合をねらって,現象を理解し見通しを得ることと精度が両立する手法の開発を進める.得られた手法を用いて,管路の形状・寸法,シリンダの断面積,バルブ開口断面積,付加質量,切換周波数などが,平均回生率,振動回生率,総合回生率にどのようなメカニズムでどのように影響するかを明らかにするとともに,回生効率の向上に有効な対策を示し,指針をもって設計できる技術としてまとめる. 得られた方法を,建設機械などでも使用されている典型的な油圧システムへ適用し,PWM制御を用いれば,十分エネルギー回生できることを確認する. 以上の結果を総合し,PWM制御を用いたエネルギー回生システムの設計指針としてまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
製作中の基礎実験装置の一部の部品が特殊なものであったため納期が長く,28年度中には購入できなかったことが主な原因である.
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次年度使用額の使用計画 |
上記部品は29年度の早いうちに納入されると予想されるので,その時点で29年度にまわった予算の大半を使用する計画である.実験も早いうちに開始できる予定であり,その後は,本来のペースに戻ると考えられる.
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