研究課題/領域番号 |
15K13908
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡本 正吾 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10579064)
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研究分担者 |
関 和彦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, モデル動物研究開発部, 部長 (00226630)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ハプティクス / 反応促進 / 把持力調整 / 皮膚刺激 |
研究実績の概要 |
把持力調整を題材として、先行皮膚刺激が反射的行動に有効に働きかけるための条件を調査した。把持力調整とは、把持している物体を滑り落とさないために丁度必要な把持力をヒトが無意識に調整しているという機能である。また、把持物体に不意の外力が加わったときは、それを滑り落とさないように、把持力が反射的に増加する。この把持力調整機能に関して、2013年にわれわれは、事前に把持指に振動触刺激を与えることで、反射的な把持力の増加が早期に出現し、促進されることを発見している。本研究は、これを実験パラダイムとして、先行する皮膚刺激が、反射的行動を促進する現象を理解しようとするものである。 平成27年度は、把持物体に加わる外力の大きさを変化させながら、先行刺激の効果を検証した。本来、外力が大きいほど、反射的行動が早く出現することが知られており、外力の開始から把持力の増加までの遅延は、60-200 ms 程の範囲で変化する。外力の大きさを調整することにより、自然な把持力調整の開始が、70から120 ms の範囲に分布するような実験条件を設定した。これに対し、把持物体への外力が開始される 50 ms 前に皮膚刺激を提示する条件としない条件を設け、その効果を検証した。 実験の結果、外力が比較的小さく、把持力増加の開始に100 ms以上の遅延を要するような条件では、皮膚への先行刺激は、把持力調整を促進する効果がみとめられた。一方で、把持力調整の遅延が、100 ms 以下である場合、先行刺激による促進効果は認められなかった。後者の条件では、ヒトが本来有する把持力調整機能の限界に近付いており、そのような条件下では、先行刺激の効果は薄れてしまうことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
把持力調整を題材として、皮膚への先行刺激が反射的行動を促進する条件を調査した。その結果、反射的行動を誘発するための外力が中程度以下である場合に、把持力調整が促進されることが明らかになった。一方で、外力が大きく、反射的行動の発現に要する遅延が小さく、ヒトの限界に近い場合(~60 ms)、皮膚への先行刺激の効果は期待できないことが明らかになった。このような性状はこれまでに知られておらず、皮膚への先行触刺激による反射的行動促進の性質の理解が深まった。また、促進が成功するための条件の一つが明らかになった。このような性質はあらかじめ予想されたものではなく、当初の予定以上の発見である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、先行刺激が反射的行動を促進するための条件を特定していく。これまでは、外力が加わる物体を把持している指に予見的皮膚刺激を提示していたが、これ以外の場所への刺激でも同様の効果が出現するかどうかを調査する。例えば、交差性伸展反射の性状に鑑みて、物体を把持している手とは反対側の手に刺激を提示した場合の効果を検証する。これにより、予見的刺激が把持力調整を促進するときの神経パスを明らかにするための情報が得られると期待している。
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