掌サイズの基板上の微細流路に化学・生化学プロセスを集積したマイクロ流体チップは次世代型実験ツールとして注目されているが流体や物体の駆動には流路に比べ大きく煩雑なシステムが必要である。一方、生体の筋組織は精緻な化学・力学的機能が集約された流体制御素子であり、これを組み込むことで飛躍的に高集積・高機能なデバイスを実現可能との着想のもと、申請者は以前心筋を用いたポンプを開発したが、外部制御が困難という問題があった。そこで申請者はミミズの体壁筋に着目した。これは心筋や平滑筋のような流体制御に適した膜環状構造を持ちながら骨格筋のように瞬発性・制御性が高く、また体表の剛毛と併せて蠕動運動も可能なきわめて高度な筋組織であり、本研究ではこれを用いた微小流路内での流体制御および物体輸送システムの創成を目的とした。
当該年度は、前年度までに実証したミミズ体壁筋を用いたポンプならびにバルブの開発実績をベースに、これをロボットとして歩行機能などを持たせることを試みた。電気刺激を断続的に与えることで性能が顕著に衰えることなく繰り返しの収縮・弛緩を繰り返すことができ、さらに、3次元プリンタを用いて構造体を変形させ、この下にラインアンドスペース上の溝を設置することで、これを足掛かりとして一方向に進む歩行ロボットとした。歩行速度はこれまでの生物利用型歩行ロボットと比較しても最も早い400μm/sを達成しており、機能面でも非常に優れたものとなった。さらに、ミミズの筋肉によってレバーをひく形の構造を作製し、その下に車輪を取り付けることで断続的にではあるが、平面状を一方向に走ることができる車型デバイスを作製することにも成功しており、多様で強力な機能をもつ様々なデバイスを実証するに至った。このように、実際にミミズの体壁筋を用いたロボットを実現することができたことから、当初の計画を達成できたといえる。
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