研究課題/領域番号 |
15K13921
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
安岡 康一 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (00272675)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ秒パルス / 電界穿孔 / 大腸菌 / 生残率 / 帯電ジェット |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究実績を以下に示す。 (1)ナノ秒電界穿孔: 半導体スイッチでフライバックコンバータを構成し,同軸2重円筒構造のブルームライン線路を充電してナノ秒高電圧パルスを発生させた。パルス電圧出力はピーク電圧10 kV,半値幅5.7 nsとなった。電解穿孔による殺菌との比較を行う目的でナノ秒パルス電圧による大気圧プラズマを発生させ,これを大腸菌に照射した。この結果,パルスプラズマや付随して発生するオゾン等の影響を受けて大腸菌は死滅する確率が高いことが分かった。一方プラズマを発生させずにナノ秒パルス電界を大腸菌懸濁液に加えた場合,大腸菌は死滅せずに,染色液が大腸菌内部に導入されることを確認し,ナノ秒電界穿孔による薬液導入が可能であることがわかった。 (2)帯電ジェット液滴の発生:細径パイプ内部に絶縁性液体を導入し,高電圧加えると先端よりジェット液滴が放出されることを確認した。ただし,水道水などのように液体の導電率が高い場合はジェット液滴が観測されないことが分かった。 (3)薬剤注入評価:大腸菌の菌膜に電界穿孔で開けた細孔を通して薬液が注入できるかを確認するため,大腸菌(ATCC25922)懸濁液に細胞膜非透過性物質であるヨウ化プロピジウム(PI)を加え,上記穿孔条件でナノ秒パルス電圧を加えた。また蛍光色素であるSYTO9を併用することで,大腸菌の死滅状況,内部への薬液注入状況を色変化として可視化した。蛍光顕微鏡観察の結果,大腸菌を死滅させること無くPIが注入できること,大腸菌生残率がほぼ100%の条件で注入率は30%以上とできることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ピーク電圧10 kV,半値幅5.7 nsの繰り返しナノ秒パルス電圧を発生させて,大腸菌に電界を加えた。この結果,大腸菌を死滅させることなく電界穿孔した部位から菌内部に薬液の導入を実現した。なお薬液の効率導入,適切量導入の観点から帯電ジェット法によらない,電界,菌液,薬剤の高効率低損傷の接触条件を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究実績をふまえ,次年度は以下の研究を推進する。 (1)ナノ秒パルス電圧発生回路の小型化: 前年度に開発したナノ秒パルス電界印加装置は,大気中の同軸2重円筒構造のブルームライン線路を使用したため,線路の直径は15cm,長さは1mを超える大型装置となった。菌類の穿孔にはより小型の装置が必要であり,比誘電率の高い誘電体を使用した,小型パルス発生装置が必要である。これにより,パルス線路と負荷である大腸菌懸濁液などとのインピーダンス整合を改善でき,懸濁液以外のバイオフィルムなどへの電界印加を可能にする。 (2)薬剤と菌類との接触方法改善: 効率よく薬剤を菌類内部に導入するために,菌類を含む溶液への電界作用方法を見直す。電界穿孔発生時に薬剤が導入されるための濃度,温度などの条件,また電圧印加方法と同期方法を最適化する。薬剤として使用する消毒液の菌への到達状況を,顕微鏡観察することで薬液注入効果の評価を引き続き実施する。最後に本システムの実用化に向けた指針を得る。
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