本研究では、パルスパワー用スイッチングデバイスに炭化珪素(SiC)を用いた静電誘導型トランジスタ(SiC Static induction transistor : 以下SiC-SIT)を初めて適用する。そして、デバイス・回路統合シミュレーションによりSiC-SITのパルスパワー動作時のデバイス動作メカニズムを解明し、最終的には電力損失、生成パルス幅共に従来のSiパワーデバイスの1/10を実現するSiC-SITの設計指針の構築を目的としている。競合デバイスとして、これまでパルスパワー用スイッチング素子として用いられてきたSiの静電誘導サイリスタ(Si-SIThy)とした。 誘導エネルギー蓄積回路(IES回路)を想定して、SiC-SITとSi-SIThyの両者を比較したところ、SiC-SITの方がSi-SIThyの7分の1の電力損失を実現でき、同時に負荷における急峻な電圧パルスを発生できることが明らかになった。この理由は、SiC材料自体の潜在能力として、Si材料と比較して損失を低くできることだけでなく、SiC-SITの構造上、チャネル部の静電誘導効果や埋め込みゲート部の低い寄生インピーダンスにより、低オン抵抗、高速動作が実現できるためである。 更なる性能の向上のため、同トランジスタ中に第4の電極である遮蔽グリッド(Screen grid: SG)電極を組み込んだ新しい素子、SiC-SGVJFETについて検討した。SG電極はSiC-SIT中のゲート・ドレイン電極間の帰還容量を減少させる効果をもつ。SiC-SGVJFETについて、実デバイスのスイッチング測定により、SG電極を組み込むことによりスイッチング時の電圧変化率が増加でき、SG電極幅の調整により電圧変化率が変えられることも明らかになった。即ちより急峻なパルス発生に有望なスイッチング素子であることが明らかになった。
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