平成28年度は、共晶反応系の金属を用いた層交換成長を利用し、SiやGeなどの二次元結晶の形成を試みた。特に、表面の平坦性や析出したSiおよびGeの結晶構造を制御することに注力して、化学溶液洗浄したSi、SiGe、Ge基板上にエピタキシャル成長したAg膜の安定性や、熱処理による原子拡散が表面形状に及ぼす影響を調べた。 Si(111)上にエピタキシャル成長したAgにおいて、厚さが30nmの場合では、室温で保管すると時間経過と伴に表面形状が変化し、表面荒れが生じることが分かった。一方、-20度の低温で保管すると、形状変化を抑えることができた。また、厚さを90nmでは、安定な表面を維持することができた。表面形状が変化した試料のXPS分析では、顕著なSi原子の析出や炭素表面汚染、Ag表面の酸化は認められないことから、低温の保管により形状変化が抑制できることから、熱振動によるAgの構造変化に起因する可能性が高い。 時間に伴う表面形状変化の小さいAgをGe/(Si+Ge)組成が異なるSi、SiGe、Ge基板上に形成し、基板側からAg表面へSiやGeの拡散を促進するために、450度で熱処理を行った。その結果、熱処理後の表面形状がGeの組成の増大と伴に劇的に平坦化した。特に、Ge基板上では、三回対称な構造が明瞭に観察され、その断面プロファイルをでは、一層が0.7nmのステップ・テラス構造であった。このとき、HAXPES測定より、Ag表面でのGe析出が確認できた。さらに、高分解能の断面TEM分析では、原子レベルで平坦なAg表面上に、Geの二次元結晶に相当する2原子層の周期的なGe原子が配列することが分かった。したがって、Ag誘起層交換成長法を用いて、熱処理により原子拡散を促すことは、極薄膜や2次元結晶の形成に有望であることを明らかにした。
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