研究課題/領域番号 |
15K13952
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
冨士田 誠之 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (40432364)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / 微小共振器 / テラヘルツ / センシング |
研究実績の概要 |
本研究では,電波と光波の境界領域の周波数を有するテラヘルツ波を用いた極微量な検体の分析が可能となる高感度センシングの実現に向け,研究代表者がごく最近,人工材料フォトニック結晶を用いることで世界最小の伝搬損失の実現に成功したフォトニック結晶伝送路の研究を発展させることで,伝送路と集積化された微小共振器中でテラヘルツ波の強い閉じこめを実現し,物質とテラヘルツ波の強い相互作用による超高感度センシングを目指している.
今年度は,大気による吸収の影響が比較的小さく,応用研究も先行する0.3 THz帯に着目して,テラヘルツ帯フォトニック結晶共振器の電磁界シミュレーションによる設計を行った.孔を直線上に3個埋めた波長サイズの長さに相当する構造において,Q値10,000以上の値でテラヘルツ波が閉じ込められるという設計を得ることに成功した.そして,共振器に伝送路を隣接する形でテラヘルツ波の共振器への入出力が可能なる共振器-伝送路集積デバイスを設計した. 設計したテラヘルツ波共振器デバイスをMEMS加工ファンドリサービスを利用して作製し,ミリ波発振器,周波数逓倍器,テラヘルツミキサ,スペクトラムアナライザからなる高精度テラヘルツ波分光系で測定した.その結果,理論値に近いQ値約10,000の共振スペクトルを0.3 THz帯で得ることに成功した. さらに共振器表面へ50μm以下の厚さの異なるテープを貼り付け,スペクトルの変化を観察した.テープの付加で共振モードの感じる屈折率がわずかに高くなり,共振周波数が低周波数側にシフトするという結果が得られた.周波数シフト量とQ値から感度を見積もった結果,厚さ100 μm 以下の薄膜のセンシングを行っている他のテラヘルツ波共振器と比較して,過去最高の感度が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はテラヘルツ帯のフォトニック結晶共振器の設計とその実現,薄膜材料のセンシングの原理実証が主な研究目的であった.
電磁界シミュレーションにより設計したサンプルを作製することで,共振スペクトルの観察に成功した.さらにQ値約10,000という,テラヘルツ帯では,研究代表者の知る限り最も高いQ値の共振器の実現に首尾良く成功した. また,薄膜テープを付加した実験においても,フォトニック結晶共振器への強いテラヘルツ波の閉じこめを反映して,厚さ100 μm 以下の薄膜のセンシングを行っている他のテラヘルツ波共振器と比較して,過去最高の感度が初年度の時点で得られた.
以上の結果により,当初の計画以上の予定で,フォトニック結晶共振器による超高感度テラヘルツセンシングの可能性を示すことに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度,テラヘルツ波フォトニック結晶共振器の高感度性を示すという,当初の研究目的を示すことに成功した.そこで,今後の研究の方策としては,フォトニック結晶共振器と検体との相互作用をさらに高くできる構造の探索を行うとともに,テラヘルツ波フォトニック結晶共振器ならではの特性が一層活かせるセンシング対象の探索を行う.
具体的には,テラヘルツ帯でのセンシングが大いに期待されているバイオ・化学物質のセンシングに向けて,液体をフォトニック結晶共振器でセンシングすることを検討する.ただし,一般に液体はテラヘルツ帯において,大きな吸収効果を有するため,吸収の影響を避けつつ,高感度なセンシングを実現するかというのは,挑戦的な課題であるといえる.このような液体のセンシングにおいては,極限的な閉じ込め効果よりも,適度な閉じ込め効果が有効である可能性があるため,共振器の形状を変化させながら,最適な閉じ込め効果を得ることを目指していく.今年度同様に電磁界シミュレーションを行った上で,MEMS加工ファンドリサービスで試料を作製し,高精度テラヘルツ波分光系での共振スペクトルの観察を通じて,上記のセンシング実験を行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
サンプルの加工に要するファンドリサービス加工費に関して,当初の回数よりも少ない試作で当該年度予定していた研究成果を得ることに成功したため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように生じた次年度使用額に関しては,次年度の研究実施の結果,得られる予定の新たな設計のサンプルを加工することに使用する計画である.
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