有機薄膜デバイスの作製における真空蒸着法のデメリットであるプロセス時間の長さや装置コストの高さを解消する手段として、ホットキャピラリ出射口を持つ「高速分子線蒸着セル」の開発を進めることを目的として研究を行った。 単一開口を有する研究用高速分子線セル、それを様々な真空装置に取り付けられる汎用高速分子線蒸着源コンポーネント、今後大面積用高速分子線セルに用いる小型フラックスモニタ、蒸着時のセルおよび基板まわりの温度分布を可視化するin-situサーモイメージャー、薄膜成長への基板温度の影響を調べるための基板温度精密制御用ホルダ等を開発した。これらを改良しつつ用い、ペンタセンをモデル材料とした実験から得られた主要な装置開発上の成果は、以下のとおりである。 ・トランジスタ用半導体膜の成膜に要する総プロセス時間が、通常の真空蒸着法の1/3に短縮されることを実証した。蒸着に要する時間のみなら1/50程度にまで短縮可能である。 ・高成長速度条件では、セルからの輻射加熱によって基板加熱ヒーターなしで基板温度を50℃以上に上昇させ得る。 ・大面積用高速分子線セルの予備実験として2つのキャピラリを持つ高速分子線セルを試作し、成長速度分布を1軸方向に均一化するためのセル-基板間距離を求めた。 この他、高速分子線蒸着によって成長させた薄膜のキャリア移動度の成長条件依存性を精密に調べた結果、成長速度上昇とともに結晶粒サイズは単調に減少するものの飽和傾向が見られ、さらに粒界のエネルギー障壁高さが減少することによってキャリア移動度があまり低下しないことが確認された。また、高成長速度条件において基板温度を上昇させることで、膜中のイオン化アクセプタ密度が大きく低減され、50 Angstrom/sという高成長速度でも室温・低成長速度で成長させた膜より高いキャリア移動度が得られることが明らかになった。
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