研究課題
本研究の目的は、強磁性電極を用いた半導体スピン注入・検出技術と核電気共鳴(NER)効果を併用し、光や振動磁場を用いずに、電気的制御のみで半導体中の核スピンをナノメートルスケールの空間分解能で選択的に制御できる素子を創出することである。そのため、ソースおよびドレイン電極を強磁性電極とした電界効果型スピントランジスタ構造を用いて、1) 強磁性体から半導体への高効率スピン注入、および、高効率核スピン偏極の実現2) 半導体中のNER効果の実証とその特性解明3) NERを用いた核スピン操作とその電気的検出の実証をめざす。平成27年度は主に、ハーフメタル強磁性体をソース、ドレイン電極に用いた電界効果型スピントランジスタの作製とその基本動作実証を行った。ハーフメタル強磁性体としてCo基ホイスラー合金Co2MnSiを用い、n型GaAsチャネルと、チャネルに電界を印加するためのpn接合型バックゲートを有するスピントランジスタを試作した。その結果、試作した素子において、CoFeやFe電極を用いた従来の素子と比較して一桁以上高い、GaAsへの高効率スピン注入を実現し、さらに、注入された電子スピンにより、その近傍の核スピンを高効率に偏極できることを実証した。また、同素子において、スピン信号のゲート電圧による変調を確認した。得られたゲート変調効率は、先行研究であるSiやグラフェンチャネルの素子に比べ、約50倍高く、高効率ゲート変調を達成した。また理論面では、核スピン温度の概念を導入し、核スピンの外部磁場に対する過渡応答を定量的に解析するモデルを確立した。これにより、電子スピン系や格子系、外部磁場と複雑に相互作用する核スピンのダイナミクスを統一的に理解することに成功した。さらに電子スピン系との超微細相互作用下でのNERの発現条件に関する理論的検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要欄において述べたとおり、実験面では、ゲート構造を有するスピン注入素子において、高効率なスピン注入、ゲート変調、および、核スピン偏極を同時に達成し、NER素子実現に向けた基盤技術を確立した。理論面では、電子スピン系との超微細相互作用下での核スピンダイナミクスやNERの物理に関する理解が深まった。以上により、研究はおおむね順調に進んでいると判断される。
これまで得られた成果をもとに、今後は、NER技術を確立し、GaやAs中の核スピンに形成される4準位系を用い、核スピンのコヒーレント振動などの核スピン操作とその電気的検出の実証を行い、NERを利用した量子情報デバイスの基盤技術を確立する。具体的には、NERを用いて核スピンを操作し、核スピンの初期化やコヒーレント振動の電気的検出を目指す。GaAs中の核スピンはいずれもスピン量子数が3/2であるため、磁場印加により4準位系を形成する。NERにより遷移可能な二準位間に共鳴する振動電場をゲートからチャネル中の核スピンに印加すると、振動電場が印加されている間、核スピンは回転をし続け、その結果、NERの信号強度はパルス幅に対して振動すると考えられる。この振動をコヒーレント振動と呼び、量子力学的な重ね合わせ状態の実証となる。核スピンの場合、コヒーレント振動が消失するまでの時間スケールは一般にミリ秒オーダーであるため、振動電場のパルス幅の制御は容易である。さらに、コヒーレント振動の発現条件を系統的に調べ、先行研究であるNMRを用いた手法に対する本手法の優位性を明らかにするとともに、半導体スピン注入を用いた核スピン量子デバイスの構成法について検討する。
物品費にて購入予定の機種の選定に時間がかかり、購入計画に変更が生じたため。
主に、設備備品および消耗品の購入に使用予定
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 11件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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