本研究の目的は,大規模集積回路の劇的な超低エネルギー化を目指し,超低電圧で動作するナノワイヤトランジスタを実現するための挑戦的基礎研究を行うことである.動作電圧の目標は0.1Vに設定する.このような超低電圧では,トランジスタの特性ばらつきにより一般に回路は正常に動作しない.そこで回路の安定動作を狙い,研究代表者が考案した浮遊ゲート構造による「しきい値自己調整機構」を用いる.これは,トランジスタのオン時にしきい値電圧Vthが自動的に下がり,オフ時にVthが自動的に上がることにより特性ばらつきを自動的に抑制する機構である.本研究では,この機構を次世代デバイスとして有望なゲートオールアラウンド構造のシリコンナノワイヤトランジスタに応用し,その動作を実証することを試みた. まずデバイス設計をシミュレーションにより行った.浮遊ゲートはゲートオールアラウンド構造とするが,制御ゲートもゲートオールアラウンド構造とすると,基板バイアス効果がゼロとなるためしきい値自己調整機構が極めて小さくなってしまうことが明らかとなった.そこで,制御ゲートはナノワイヤの上部半分を覆う形状とした.電子ビーム露光とドライエッチングを用いて,しきい値自己調整ナノワイヤトランジスタを試作した.ナノワイヤ幅は38nmの極めて細い.試作デバイスを評価した結果,しきい値自己調整が設計通り行われていることを確認した.また,0.1Vという極めて低い電圧においてもしきい値自己調整機構が働くことを確認した.さらに,試作デバイスのパラメータを抽出してスタティックメモリ(SRAM)の安定性をシミュレーションで評価した結果,電源電圧0.1VにおいてSRAMの安定性が自己調整機構により向上することを明らかにした.これらの結果より,しきい値自己調整ナノワイヤトランジスタが,将来の超低エネルギー集積回路に有用であることを明らかにした.
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