研究課題/領域番号 |
15K13972
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊東 栄次 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (50303441)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポリイミド / ガスセンサ / 自動制御システム / 湿度センサ / ナノシート / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
本年度(初年度)は混合ガスを自動制御して導入可能な計測システムの構築と基礎データの収集を行った。当初計画通り、以下の3つを主に検討した。 1)高速混合ガス制御システムを用いたガスセンシングデバイス(センサ)計測システムの構築/2)CNT電極を有するポリイミド静電容量型湿度センサの高速応答評価と水蒸気拡散定数の解析/3)n型とp型の有機半導体極薄膜と誘電体ナノ材料層を組合わせた2層型素子の試作と応答性を評価した。 項目1)カーボンナノチューブ(CNT)とポリイミドの複合体を電極とした湿度センサはCNT上部電極のナノ多孔性により0.1秒台で応答する。既存のシステムではチャンバー内のガス置換に要する時間を1秒未満とすることが出来ないので、マスフローコントローラ(MFC)を複数台同時制御するための測定系に加えて、超小型計測チャンバーや0.01秒で高速動作する電磁弁を組合わせて0.1秒台の高速ガス置換を達成した。また、混合ガス圧縮容器を新たに開発して、乾燥空気と飽和水蒸気を任意の比率で混ぜたり、乾燥空気と高速に入れ替える自動制御可能なシステムの構築と実証を行い、現状の世界最速の湿度センサを上回る少なくとも0.4秒以下の超高速応答を確認した。 項目2)CNT電極を有するポリイミド湿度センサの応答速度を項目1の計測システムにより評価した。ガス置換時間を極限まで短くしたシステムにより、電極に用いるCNTの種類やポリイミドの膜厚を薄くすることでさらなる高速化が期待できることも明らかとなった。 項目3) n型とp型の有機半導体極薄膜と誘電体ナノ材料層を組合わせた2層型素子を試作した。まずは、ナノシート層との積層条件を検討して導通防止(pin-holeを無くす)ことに注力し、得られたデバイスの応答性を評価した。酸素等の還元ガスと酸化ガスに対してそれぞれ異なる動作を確認することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、乾燥空気(または不活性ガス)と蒸気を含む空気(または不活性ガス)と酸素や水素などの合計3つの酸化還元ガスの混合比を制御して特性評価することを計画したが、酸素や水素、及び任意ガスの混合比を制御するには、5元で制御する必要があることが判明した。そこで、当初計画よりもアップグレードした系を構築し動作検証も行った。 また、任意ガスを制御するにあたり、例えば水素・アセトン・エタノール等はppmオーダー以下で制御する必要があることが判明した。これに対応するため、2段ガス制御システムにアップグレードし、実際にこれまで実施例の殆どないppmオーダーのガスを高速制御する測定系を構築した。 また、これらの制御システムにより、湿度センサや任意ガス対象としたセンサデバイスの動作を実証した。「研究実績の概要」で述べた項目3のセンサに関しては、動作確認はしたもののまだ改良を要する段階であるが、その他については当初計画よりも高度な計測システムを実証したことから当初計画以上に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に記載したように、概ね当初計画通りあるいは部分的にそれ以上に進展しているが、センサの膜厚やCNT材料を変えた際の結果から、湿度センサについてはさらなる高速化が期待できることが明らかとなった。ただし、0.1秒台の応答で3桁程度の分解能で計測するには既存のLCRメータ等を用いた計測では不十分である。本年度実績として、センサ応答が0.1秒台であることを実証したが、このスピードになるとLCRメータ等の計測器の計測値が安定化するに要する時間がむしろ問題となる。そこで、今後は高速な計測手法についても検討を行うとともに、雰囲気制御をより安定かつ速やかに行う工夫を凝らしていく予定である。今後は、当初計画通り2年目に高分解能オシロスコープの波形を直接観測して解析する手法についても検討する。
また、誘電体ナノ材料(主にナノシート)と有機半導体を組合わせた新型センサについては、改良の余地が多く、高感度化や電圧依存性・周波数応答解析を通じた高機能化に向けた検討を推進し、多彩な被測定ガスを高感度あるいは高速検知可能な次世代計測システムの構築とデバイスの動作原理の解明を推進していく予定である。
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