研究課題/領域番号 |
15K13987
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
竹内 啓悟 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30549697)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 情報通信工学 / 情報理論 / 大規模MIMO / 通信路推定 / 圧縮センシング |
研究実績の概要 |
大規模MIMOとは、ユーザ数に比べて多数のアンテナを基地局に備えることで高速通信を実現するシステムである。大規模MIMOの性能を劣化させる要因として、ユーザから基地局に情報を伝送する上り回線における通信路推定で、パイロット汚染問題が生じることが指摘されている。パイロット汚染問題とは、通信路推定用にユーザが送る直交パイロット系列の総数に限りがあるため、異なる基地局に属する二人のユーザに同一の系列が割り当てられてしまうことで、基地局で同ユーザに関する通信路を分離・推定することが困難になる問題である。 パイロット汚染を解決する前段階として、圧縮センシングの分野で開発された近似的メッセージ伝搬法(approximate message passing, 略してAMP)に基づいて、セミブラインド通信路推定の反復法を構築するための初歩的検討を行った。セミブラインドとは、パイロット汚染が生じないという条件下で、初期の通信路推定にパイロット信号を利用する方法である。 具体的には、計算の簡略化のためにシンボル事前分布としてガウス分布を仮定した上で、AMPに基づく通信路推定の反復法を導出した。パイロット汚染が生じないようなパイロット信号の配置を検討し、数値実験を行った。その結果、十分な通信路推定性能を得るためには、やはり真のシンボル事前分布を検討すべきことと、AMPの収束性を高めるためにはダンピング等の工夫が必要であることとが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、ユーザ数に比べてアンテナ数が多い場合には、シンボル事前分布をガウス分布と仮定して計算の簡略化を行っても、通信路推定はうまく動作すると予想していた。しかし、数値実験を行った結果、この予想は間違っていたことが判明したため、この観点からは研究は当初の計画よりも遅れていると言える。一方で、本研究課題の最大の難関である通信路推定の初期化方法については、当初の計画以上に研究が進展し、おおよその道筋をつけることができた。以上を総合的に評価し、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に記載した通り、真のシンボル事前分布やダンピング等を使用することで、まずは通信路推定の十分な精度が得られることを数値実験によって確認することを目指す。 数値実験による確認が終了した後に、当初の計画通り、ユーザ数と基地局のアンテナ数との比を一定に保って両者を無限大とした大システム極限を仮定した理論解析を実施する。そのために、AMPの標準的な解析手法である状態発展法を用いる。状態発展法とは、大システム極限を仮定することで、反復法の動特性を厳密かつ簡潔に表現するための状態発展方程式を導出するための手法である。状態発展法による理論解析と数値実験とを比較することで、理論解析の妥当性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初に予定していなかった研究代表者の所属機関の異動が発生したため、物品の運搬に関わるコストの経済的合理性を鑑みて、当初に予定していた物品の購入時期を次年度にずらしたために、次年度使用額が生じた。当該物品は研究が大幅に進展したときに必要となることを見越して初年度に計上したものなので、研究の進捗には影響を与えない。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、研究開始当初に初年度に購入を予定していた物品の取得に使用する計画である。
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