大規模MIMOとは、ユーザ数に比べて多数のアンテナを基地局に備えることで高速通信を実現するシステムである。大規模MIMOの性能を劣化させる要因として、ユーザから基地局に情報を伝送する上り回線における通信路推定で、パイロット汚染問題が生じることが指摘されている。パイロット汚染問題とは、通信路推定用にユーザが送る直交パイロット系列の総数に限りがあるため、異なる基地局に属する二人のユーザに同一の系列が割り当てられてしまうことで、基地局で同ユーザに関する通信路を分離・推定することが困難になる問題である。 上記の問題を解決するために、平成28年度に実施した状態発展法に基づく反復推定法の収束特性の解析結果を参考にして、近似的メッセージ伝播法に基づく反復推定法の更新規則の設計を行った。具体的には、収束特性が特に良好でない処理として、通信路推定で得られた結果を利用してデータ推定の精度を改善する処理に注目した。 通信路推定において反復を行ったことによるデータ推定への悪影響を除去する目的で、近似的メッセージ伝播法に基づくデータ推定では、オンサーガ項と呼ばれる推定値の補正項が備わっている。しかしながら、初回のデータ推定に限り、このオンサーガ項がデータ推定の精度に悪影響を与えていることを数値実験により発見した。オンサーガ項の悪影響が及ばないように、初回のデータ推定の初期化を工夫した結果、近似的メッセージ伝播法に基づく通信路とデータの同時反復推定法は良好な収束特性を示すことを数値実験により確認した。
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