研究課題/領域番号 |
15K14001
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
ベイ ジョンソク 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20165525)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 計測機器 / テラヘルツ光 |
研究実績の概要 |
本年度は、容量性金属メッシュを用いた計測回路で用いる容量性金属メッシュおよびガン発振器の設計、製作、そしてその評価と当初研究計画に従って実施した。 先ず、容量性金属メッシュについて理論解析を進め、Wバンド(75GHz~110GHz)で表面プラズモン共鳴効果が観測可能なメッシュパラメータ、つまり、金属メッシュのピッチ、金属パターンの間隙幅、基板として用いる石英基板の厚さ、の各値を決定した。この理論解析を通して、石英基板厚増加に対し指数関数的に共鳴周波数が減少することを定量的に明らかにした。この結果は、基板選定時に不可欠な重要な知見である。次に、新たに真空蒸着装置を設備し、設計したメッシュを金属にアルミを用いて製作し、その透過特性を実験的に評価した。その結果より、共鳴効果が失われないメッシュサイズの最小直径が約10mm(7周期以上)であること、次に、金属メッシュ表面に付着させる誘電体の比誘電率変化に対する共鳴周波数変化割合が-2.5E9となり、メッシュ単体でも高い変化率が得られること、測定共鳴周波数と設計値との間に数GHz以上の差異があること、が分かった。これらの結果より、理論モデルの改良が次年度の課題として残ったが、基本的な金属メッシュの製作を完了した。 金属メッシュを反射鏡として用いるガンダイオード発振器の開発を実施した。ガンダイオードとしては、より利得が大きく発振出力の大きなInPタイプ選択し、発振器回路の設計、製作を行い、発振器の基本特性評価を実施した。その結果、90GHz~95GHzでの発振を実験的に確認し、基本的な発振器製作を完了した。実際のセンサー用発振器としては、より広帯域での発振が望ましいことから、直流バイス供給部のポスト形状の見直しを次年度実施することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初研究計画では、①容量性金属メッシュの設計、製作、評価、②ガンダイオードを用いた共振回路部の設計と製作、③発振器出力測定用ミリ波回路の製作、④製作した発振器の出力特性の実験的確認と設計結果との比較検討、をそれぞれ実施するとした。 ①に対し、ほぼ予定通り実施することができた。実施結果より、メッシュ単体でも1E-5以下の微小な誘電率差の識別が可能であることが分かり、本計測方式の有用性を確認することができた。ただ、理論設計値と実際に製作したメッシュにおける表面プラズモン共鳴周波数に大きな差異があり、無限周期のメッシュを使った理論モデルの不完全性も明らかとなった。このモデル改良は、次年度の課題として残った。 ②に対し、基本的なガン発振器の開発を完了している。但し、メッシュを反射鏡として用いる部分は、設計値と実際に製作したメッシュの共鳴周波数が異なったため、未完了となった。これは、①の理論モデル改良と共に、開発したガン発振器の発振周波数に合わせ、メッシュを再製作することで完了させる予定である。 ③に対し、当初目標を達成した。④に対しては、②で述べた問題のため、次年度への課題として残された。 以上の通り、金属メッシュおよびガン発振器の基本的な部分は当初計画通り完了したが、メッシュを反射鏡として用いる部分が未完了のため、最終的な研究目標に対する達成度は、約40%である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度残された課題に対する改良を行い、当初研究計画通り、金属メッシュを用いた発振器型高感度計測を実施し、当初目標である1E-5以下の微小な誘電率差の識別が可能なことを実証する予定である。その方法は、次の通りである。 (1)金属メッシュ理論モデルの改良:現在の無限周期メッシュと平面波入射を用いた理論モデルでは、実験と大きな差異を生じることが分かった。より実際に近い理論モデルを再構築し、実験との差異が何故でるのか明らかにする。この結果に基づき、より精度の高い金属メッシュセンサー回路設計法確立のための基礎データを取得する。 (2)発振回路の改良: ガンダイオードへのバイアス形状を変更することで発振周波数範囲の広帯域化を計ると同時に、発振器の発振周波数に合わせ金属メッシュを再製作し、計測回路を完成させる。 (3)測定試料の準備: 測定試料として、特性の明らかな半導体(SiやGaAs等)や各種誘電体基板、そして、本センサー方式の優位性を示すため、成分の異なる水溶性試料を準備する予定である。 (4)各種試料の複素誘電率の計測: 厚さや材質の異なる試料を金属メッシュ表面上において、その時の発振出力電力と周波数の変化を詳細に測定する。この結果と理論との照合を通して、本測定方式の動作原理を検証し、その有用性を立証する。更に、精密な誘電率測定における定量化における問題点を明らかにし、より高いTHz周波数領域へ適用するための基礎データを取得する。同時に当初目標値である1E-5以下の微小な誘電率差の識別が可能なことを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた金属メッシュを反射鏡として用いる発振器出力部の製作が次年度課題として残ったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
金属メッシュを再製作後、開発したガンダイオード発振器への取付け部の製作費として使用する予定である。
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