研究課題
現在、世界の乳癌健診においては、X線を用いたレントゲンを乳房用に改良したマンモグラフィが標準化されており、乳癌組織の生成に伴う石灰の存在を可視化することにより、乳癌の存在、位置特定の決定がなされている。ところが、この技術では、乳房内の正常組織におけるX線の透過吸収量に比べ、石灰を含む領域の透過吸収量が、検出器の精度に比べて十分な差が存在しなければならない。医療統計においては、アジア人の3~4割は、乳腺が発達した高濃度乳房と呼ばれる乳房を持ち、微細な石灰の存在をX線透過吸収により検出することができないという、いわゆる現行のX線マンモグラフィにおける“高濃度乳房の問題”がある。一方、以前から、乳癌組織における毛細血管の増殖、血液量、細胞数の増大による局部水分含有量の増加に基づく、“局所誘電率の増加”をマイクロ波を用いて検出する技術が注目されてきたが、波動散乱の計測データから散乱体の構造を再構成する“一種の波動散乱の逆解析の問題”が未解決であったため、乳癌検出波動として有望なマイクロ波を活用した機器の実現が、世界的になされていなかった。我々は、2013年にこの課題を解決する、散乱トモグラフィの理論を発明し、それを機にマイクロ波を用いた散乱場断層イメージング技術の開発を進めてきた。これまで、ファントムで実験、動物実験、人体での実験に成功し、量産機の開発に向けた要素技術の改良を進め、本研究では、マルチスタティック計測のアレイアンテナの開発、乳房内織の誘電物性の計測、アンテナのサイズ効果を考慮した散乱トモグラフィ理論の開発を実施し、重要な成果を収めた。この知見を今後さらに深化させ、数年以内に、量産機の実現と、乳癌検出の物性論的基礎の確立、世界各国での使用認可を得て、全世界の乳癌撲滅に貢献するために研究を進める計画である。
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