研究課題/領域番号 |
15K14008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石川 将人 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20323826)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 言語獲得 / 因果誘因仮説 / 自律分散ネットワーク / 移動ロボット / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,言語の形成と獲得の過程,特にその重要な論点の一つと考えられる「個体としてのヒトの生得的な能力と,外部からの刺激要因が果たす役割」に着目し,文法の形成過程におけるコミュニケーション(対話)と推論の寄与について論じることを目的としている.昨年度は主に外部刺激に対する推論のモデルについて調査を行ったが,本年度は主に対話と相互作用に焦点を当てた.すなわち,フィールド上での移動,他者や障害物との遭遇あるいは搬送という事象を経験する個体を想定し,個体間対話および個体ー環境間の相互作用を表現する数理モデルの構築とシミュレーションによる検討を行った. モデルの主な構成要素は下記の二つである.(1) 移動と対話:刺激の発生要因として,多数の話者エージェントが平面フィールド上で移動を行い,遭遇時に互いの情報を対話によって交換する状況を想定する.場面を移動にまつわるものに限定することで,単純ながら豊かな情報量を有し,かつ時間依存性をもつエピソードを自動生成することができる.(2) 因果関係の推論:各話者エージェントの生得能力については,昨年度の成果を簡略化したものとして,自己の行動履歴を一定長記憶し,それを各話者固有の文法パラメータでエンコード(記号化)して発話するものと設定する.初期状態では話者間のパラメータは異なる(共通の文法知識がない)が,因果関係を論理的に推論する能力を有すると仮定する.以上の設定に基づいて数値検証を行い,情報交換と推論によって共通のシンタックスを獲得(合意)する過程,また自由な移動を妨げる地理的要因を配置することによって情報交換の一様性が抑制され,文法の地理的乖離とみられる現象などが観察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,フィールド上を移動し,他者や障害物との対話や相互作用によりその情報の因果関係を推論するエージェントのモデル構築と検証を行っているが,移動と対話のモデルと学習的推論のモデルについて,それぞれの計算機環境の性質が異なるなどの理由により両者の統合が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
移動と対話のシミュレーションモデルを再構築し,学習的推論のモデルに統合する.また,結果として得られる対話プロトコルの合意過程や空間的分布の性質について,普遍文法の観点から言語学的知見との整合を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた研究発表が行えなかったため,未使用額を研究発表費用ならびに理論言語学の知見整理のため書籍・ソフトウェアのために使用する.
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