研究課題/領域番号 |
15K14013
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
五十嵐 心一 金沢大学, 環境デザイン学系, 教授 (50168100)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遷移帯 / 点過程 / 水和度 / 粒度分布 / シミュレーション / R / ポアソン分布 / 濃淡マップ |
研究実績の概要 |
昨年度までにおいて,セメントの粒子配置を点過程にて表現し,その分布状況の空間統計量の評価から遷移帯に相当するような領域の存在は確認できないこと,および遷移帯の存在を裏付けるような電気伝導特性の変化は,厚さを変化させたコンクリート供試体にて観察されないことを明らかにした.そこで今年度は,これらの成果に基づき,セメントの水和進行を点過程のパラメータである点密度およびセメント粒度分布の変化と関連付けながら解析を行い,初期のセメント粒子充填状態の推定および材齢の進行にともなうセメント粒子密度の変化をシミュレーションにより検討を行った.その結果,セメント粒子充填における骨材の壁効果の影響は,骨材周囲に一様に生じているわけでなく,統計的な性質を持つことを改めて示した.以上のことから,セメントの粒度分布において細かい粒子は非常に多く,これらは骨材表面に十分に接近可能であって,領域としての充填不足域が形成されるとは限らないことが推察された.初期のセメント粒子配置のランダム変動の範囲内の現象が遷移帯の側面であることを確信した. また,昨年から引き継いだ検討課題であったRによるシミュレーションおよびその結果の表現については,マッピングにて濃淡を表す手段を確立し,ある任意材齢の水和度とセメント粒子配置から,それ以前の材齢のセメント粒子密度を濃淡表示した.また,セメント粒子を表す点の発生をランダムに行うだけでなく,セメントペーストマトリックス中の未水和セメント以外の領域に発生させるシミュレーションも可能となった.その結果,若材齢期にては界面に濃度の低い領域が統計的な変動のもと観察されるが,全体としてはよりランダムな状態であることが示された.すなわち,界面であっても粒子はランダムであり,特徴的に粒子が少なくなるような状況は考えにくいことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水セメント比の変化と点密度の対応を明らかにすることを計画していたが,その計画中にてセメント水和反応の進行にともなう粒度分布の変化を点密度に関連付ける方が研究目的に合致するとの結論に至った.使用している市販セメントの粒度分布を求めることはできないが,セメント共同試験結果をもとに初期の粒度分布を推定することにした.それから多くの研究者が用いているように,所定の反応厚さを仮定して水和度を計算する手法を援用して粒度分布を計算し,別途観察により求めた点密度との関係を明らかにした.これから,逆解析的に初期状態を推定することを思いつき,概ね妥当と判断される練り混ぜ直後の状態(初期状態)をシミュレーションできるようになった.この結果を基本にして,任意の水セメント比にて水和度と点密度の関係を明確にする見通しがたった.この点は当初計画では次年度実施予定であったので,順調に進んだ一つの成果と考えている.また,点過程の濃淡領域差をマッピングにて表示できるようになったことも,論文執筆上の説得力の大きな向上をもたらした.しかし,その一方にて,その推定された初期状態と実際の状態を比較して妥当性を検証する予定であったが,初期状態を再現する試料作成が困難であり,セメント粒子の沈降問題の解決に至らなかった.この間,担当していた学生の身心の状態が不安定になり,実験が思うように進まない期間が相当期間あったことが研究を遅延させることにもなった. 以上のことを総合的に判断すると,今年度単年度の評価では,プラスマイナス相殺に近い.しかし,昨年度が計画以上の進展であったことおよびこのような状況の中でも1編の査読付き論文として投稿を終えることができたことと新たな表現方法をツールとして確立できたことを考慮すると,研究計画全体としては依然として(2)概ね順調段階にあると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
計画最終年度になるため,これまでの成果を時系列的に総括していく.特に,セメント粒子の点過程の観点からは,遷移帯はランダム変動の範囲内であることが示されたと考えるが,最終的には界面の粒子充填を観察することがやはり必要であるように思う.今年度の失敗の原因を精査し,増粘剤の使用なども考慮して,粒子沈降の問題を解決して初期充填状態の観察に取り組む予定である.この初期状態の観察と上述の初期状態推定シミュレーションの一致性を明らかにして,全体のシミュレーションの妥当性の根拠を示し,研究全体の主張である「ランダム変動のばらつきの範囲内の変動が見かけの遷移帯」であることを証明する. この研究を進めていくうちに,点過程法の展開のさらなる可能性を強く感じるようになった.その一方にて,粒子配置と分布のみで評価することの妥当性をもう少し明確にする必要性も感じる.特に,投稿論文および学会発表時の質疑応答にて,粒子面積がやはり重要であるとの指摘を複数回受けた.そこで,界面に近いところの粒子分布には小粒子の効果も大粒子の効果もすべて包含した配置として表現できていることを証明するような実験に取り組むことも考えたい.その一つの方策として,JISに規定されている標準粉体の混合物の断面を観察して,その点過程としての特徴を明確にすることを新たなスタート地点として設定し,今後の関連研究の基礎となるような知見を得たいと考えている.この点に関しては,同じ研究機関に所属する粉体工学の研究者の助言を受けたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況にて述べたように,年度途中にて担当学生の健康問題が発生し,長期の休養を要した.このため,粒子充填の初期状態を推定するための試料作成とSEM観察の実験が予定通りに進まず,結果として消耗品の使用が予算を大きく下回った.
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次年度使用額の使用計画 |
未実施の実験用の消耗品および国内旅費に充当し,適切に執行する予定である.
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