本研究は従来存在すると信じられながらも,その存在が明確ではないコンクリート中の骨材-セメントペースト界面領域(遷移帯)に関して,コンクリートをランダム不均質材料としてその内部組織を統計学に基づいて定量的評価を行い,その結果から遷移帯の存在を合理的に否定しうる可能性について検討してきた.これまでの界面領域観察の基づく研究成果から,最終年度においては可能な限りの若材齢にて界面観察を行い,セメント粒子充填性の評価を行うことを第1の目的とした.練り混ぜ直後から始発までのごく若材齢にてモルタル試料の凍結真空乾燥を行い,その後直ちに樹脂含浸を行って包埋することを試みた.しかし,均質な試料作成が困難であった.このため,材齢12時間の界面観察の結果とその時点での水和度を用い,ランダム充填という条件下でシミュレーションを行って,初期状態の推定を行った.セメントの粒度分布をロジンラムラー分布にて近似し,さらにステレオロジーの基本式を用いて,3次元の点密度から2次元断面を観察したときに表面に現れる粒子数を算出した.その初期粒子数になるまでセメント粒子(石灰石微細粒子も含む)をランダムに加えていく 2項点過程としてシミュレーションを行った. その結果,練り混ぜ直後の状態においては,セメントペーストマトリックス内でセメント粒子密度の濃淡はあるけれども,骨材粒子近傍にてセメント粒子の点密度の濃淡変動が,材齢を経た場合よりも小さくなることが確認された.これより,練り混ぜ直後におけるセメント粒子の初期配置は,粒子充填の観点からは水和反応が進行した段階に比べてより均質な状態にあること推定される.つまり,セメント粒子は骨材の壁効果によりその分散に制限を受けると考えられているが,実際にはその影響はランダムの変動の範囲内であって,界面も含めたマトリックス全体においては統計的に均質な状態が再現されていると考えられる.
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