研究課題/領域番号 |
15K14018
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
斎藤 隆泰 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00535114)
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研究分担者 |
中畑 和之 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (20380256)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非線形超音波法 / 高調波 / 分調波 / き裂 / 超音波非破壊評価 / 時間領域境界要素法 / 共振現象 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、平成27年度に構築した力学モデル等を考慮して、具体的に分調波発生シミュレーションを実施した。解析モデルは、当初の予定通り、無限弾性体中のき裂と、2層体中の層間剥離欠陥を想定した場合の2パターンを考慮した。解析に用いたシミュレーション手法は、研究代表者らがこれまでの研究で開発した演算子積分時間領域境界要素法である。この方法は、差分法や有限要素法に比べて、き裂等の線上欠陥を数学的に厳密に扱えること、無限遠での超音波の伝搬を精度良く扱うことができること、計算精度が高いこと、解析に必要なメッシュ生成がき裂面だけでよいことがメリットである。いずれの解析モデルに対しても、実際の超音波探傷を想定して、連続正弦波をき裂面に入射させ、き裂開口面の繰り返し打撃等が定常状態に近くなるようにシミュレーションを実行した。また、無限弾性体中のき裂を扱う場合には、き裂の形状を単純な直線と仮定するだけでなく、曲線上のき裂や、材料底面から伸びるき裂、複数き裂等も考慮した。また、対応する問題の周波数解析も行い、どの程度の周波数で共振現象が発生しやすいかについての考察も行った。その結果、直線上のき裂や、層間剥離欠陥からは明確な分調波を確認することはできなかったものの、曲線き裂や、底面から伸びるき裂、複数き裂を想定した場合に、周波数解析で得られた共振しやすい状況下での周波数体を中心に、比較的分調波が発生しやすいことを数値シミュレーションにより確かめることができた。また、その際、分調波だけでなく、高調波も同時に現れることが確かめられた。 このように、分調波の発生現象は、高調波のようにき裂面の繰り返し打撃やせん断変形だけで発生するのではなく、き裂同士やき裂と他の散乱体と入射超音波に対する何らかの共振現象が影響して発生しているのではないかということを結論づけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の当初の本研究計画の最大の目的は、平成27年度に検討したモデルを取り入れた、き裂による超音波の散乱解析手法の開発、および散乱シミュレーションの実行を行うことであった。これに対して、研究代表者らは、実際に、2次元弾性波動問題に対する演算子積分時間領域境界要素法を用いてき裂に対する非線形超音波シミュレーターを構築することを行っている。また、本非線形超音波シミュレーターで扱える解析モデルも、単一き裂ばかりではなく、底面き裂や複数き裂等も扱えるよう工夫してある。よって、今年度の1つの目標でもある超音波の散乱解析手法の開発は、予定通り十分に実施することができたと言える。一方、もう1つの目標である、開発したシミュレーターを用いた散乱シミュレーションの実行についても、概ね、予定通り進捗したと考えられる。実際に、当初想定した通りの解析モデルに対して、分調波シミュレーションを実行し、最大の目的でもある、分調波のシミュレーションに成功している。そのため、平成28年度に予定した2つの大きな目標は、概ね順調に進展していると言ってよいであろう。しかしながら、本シミュレーションで発生した分調波がいかなる状況下で生じるのかという定量的な考察には、さらなる検討が必要であると思われる。また、数値シミュレーションで得られた超音波の散乱波形から分調波を検出する場合、単にフーリエ変換の関係を用いた周波数解析を実施しているのみである。そのため、分調波の発生現象をより定量的に評価するためには、そのような信号処理に対する方策を取り入れていくことも今後の課題となると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度、平成28年度はいずれもおおむね順調に研究が進展してきたことから、予定通り、平成29年度は、平成27、28年度の結果をもとに、如何なる条件下で分調波が発生するかを注意深く検討し、分調波を用いたき裂の検出方法の有効性について検討する予定である。そのため、まずは、引き続き平成28年度に開発した超音波シミュレーターを用いた分調波シミュレーションを実施し、いかなる状況下で分調波が発生するかを注意深く観察することを行う。一方、平成29年度は、分調波を用いた実際の超音波非破壊評価法をどのように行うかについても検討する予定である。例えば、実際の非破壊評価法における分調波の需要は、残留応力下にお ける鋼溶接部の閉じたき裂の検出や、コンクリートと鋼板の剥離欠陥の検出等が挙げられる。そのため、今後は、より現実のモデルに即した応用解析モデルに対して非線形超音波シミュレーションを実施する必要があるであろう。また、超音波非破壊評価法の最終目的は、欠陥の位置等を特定することにある。そのため、分調波を活かした閉じたき裂や層間剥離等の欠陥を精度良く検出する方法についても検討する必要があるであろう。そのためには、ピッチキャッチ方や透過法といった現実的な送受信モデルのもとに、分調波や高調波を用いてどのように欠陥を検出するかについて逆散乱解析などの逆問題手法の利用を検討する必要があるであろう。また、分調波にしろ高調波にしろ、いずれの発生機構もき裂面の振動現象が関係していると思われる。き裂面の振動のシミュレーションは、例えば分子動力学法の分野等でも行われている。そのため、例えば、本研究で用いている演算子積分時間領域境界要素法だけでなく、例えば粒子法等の固体粒子を直接表現するような方法で詳細なシミュレーションをすることも検討の余地があると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度生じた次年度使用額はおよそ20万円程度である。次年度使用額が生じた理由は、参加予定であった国内学会が他の行事と重なったためであること、研究打ち合わせの一部を、学会会期中に行った等のことから生じたものである。また、1つの国内発表論文の投稿予定を査読料等が無料の国際学術雑誌への投稿に切り替えたため、その分の予定使用金額も次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度生じた次年度使用額については、現時点では、H29年度の打ち合わせ旅費や、大学院生への研究補助に対する謝金等に使用する計画を立てている。特に、平成29年度は平成28年度の分調波の発生機構等が一部明らかになったため、その定量性を確保する意味でも、数多くの数値シミュレーションの実施が必要になると思われる。
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