研究課題/領域番号 |
15K14038
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40134332)
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研究分担者 |
山口 雅利 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20373376)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / カビ臭 / 過酸化水素 / アオコ対策 / 曝気循環対策 / 貯水池 / ジメチルイソボルネオール / 富栄養化対策 |
研究実績の概要 |
富栄養化したダム湖に増殖するシアノバクテリア(アオコ)が発生するカビ臭問題は、良質な水を供給する上で極めて重要な問題である。本研究では、当初、カビ臭の生成に関与する遺伝子を利用して、カビ臭対策に用いることを考えていた。そのため、平成28年度までの結果では、曝気循環によるアオコ対策の仕組みを、単に、光制限だけでなく圧力変化による影響が多いこと、遺伝子解析を用いることで、これによる2MIB発生に対する影響を明らかにした。ところが、平成29年度においては、過酸化水素濃度を用いて、アオコの受ける環境ストレス強度の評価を可能にしたことで、これまでのシアノバクテリアの増殖を抑制させるために、光の強度不足を行う必要があるという仮説が正しくないことを明らかにした。すなわち、貯水池内の水面近傍においては、光が強すぎることで、光化学系IIにおいて過剰の電子が生成、これが光化学系Iに伝達された際に、十分な二酸化炭素が供給されない場合には、大量の活性酸素を発生、これがタンパク質やDNAを破壊、増殖を抑制するという光阻害の機構が働いているということである。この事実を用いると、これまでの曝気循環によるアオコ対策の方法を根本から変更できる。すなわち、曝気循環方式で最も大きな問題である、貯水池内で大量の電力で循環を生じさせる必要がなくなり、アオコを表層に滞留させたままで、制御できる可能性を示すことができた。アオコにかかる光ストレスが最小となる光強度は光量子量50マイクロモル/s/m2程度であり、これより光強度が強くなるとアオコ体内の活性酸素量が高くなり増殖量が低下する。すなわち、この光強度になる水深1m程度より浅い水深の場所にアオコを滞留させることで増殖を抑制することが可能になることが示された。また、ストレス強度が大きい状態では、カビ臭物質も生成されないことも示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、貯水池内のアオコ対策として、曝気循環方式を前提に考えてきた。この方式では、水面近傍の有光層中のアオコを曝気循環装置によって人工的に循環を起こすことで深部に移動させ、光制御によってアオコの増殖を抑えるという方式である。本研究では、平成28年度までは、この前提に則り、アオコを深部に移動させることによるアオコの増殖抑制の仕組みを明らかにした。ここでは、光制御による増殖率の低下の他に、圧力変化による気泡破壊によるアオコの沈降があることを示した。しかし、環境ストレスの強度評価に過酸化水素濃度が有効に利用できることを発見、これを用いてアオコにとっての光によるストレス強度を計測した。その結果、アオコにとっては、貯水池水面付近の光強度は強すぎ、水深1-2m程度の光強度が最も適していることが示された。この結果を用いると、曝気循環方式によって、水面近傍に滞留するアオコを人工的に深い水深に移動させる必要はないことを意味する。通常、曝気循環の問題点は、大量の水を循環させるために大量の電気エネルギーを利用しなければならないことであり、この必要がないことは大きなメリットである。そのため、平成29年度半ばからは、異なるシアノバクテリア種に対する、各光強度に対する環境ストレス手法(過酸化水素濃度)の分布の測定を中心に行った。その結果、カビ臭を産出しないミクロキスティスでは、比較的強い光強度にも強いのに対し、カビ臭を産出する代表種であるシュードアナべナ等は強い光には耐性が低いことが示された。すなわち、新しく考えられる手法の有効性が示唆される結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られた仮説では、カビ臭を産出するシアノバクテリア対策では、曝気循環によって貯水池内で混合を起こしてアオコを深部に移動させるのではなく、水面近傍に留めることで、強い光を浴びさせ、体内に大量の活性酸素を発生させることで増殖を抑制、枯死に至らしめることが求められる。研究では、それぞれの光強度に対し、どの程度の期間光をあてることで増殖が低下、枯死に至るかを求めることが必要になる。また、この場合、細胞自体の活性度に影響されることから、単に、細胞数やクロロフィル濃度を指標にするのではなく、活性度も含んだ指標での評価が必要になる。それには、本研究では開発した過酸化水素濃度の指標が利用できる。そのため、以下のような研究が必要になる。様々な光強度、場合によっては、水温、栄養塩濃度を変化させた単一種のシアノバクテリアの培養実験を行い、定期的に、過酸化水素濃度、細胞数、クロロフィル濃度等を測定、過酸化水素濃度を用いた一義的な評価の可能性について求める。次に、それぞれの条件で得られる過酸化水素濃度と継続時間に対する、枯死率(細胞減少率)及び、過酸化水素濃度の上昇率(ストレス上昇率)を把握する。この結果から、枯死に必要な時間が得られることから、実際に野外の貯水池で用いることを考えた場合に、アオコを水面近傍に滞留させる仕組み開発の方針が求められる。実用化の観点からは、これによって開発された方式による現地実験も必要になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
対象となる種(株)の在庫不足により、29年度中に実験を終了することが不可能になったため、30年度に延長することになった。
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