特定の条件下で同乗者が運転者の事故確率を低下させることが、過去数十年の海外の研究で明らかになったからだ。しかし高齢者の運転に常に誰かが同伴すると想定することは現実的でない。そこで、同乗者が運転者に効果を与える機能を自動音声やロボットに担わせるための研究が急務である。 本研究は、ドライビング・シミュレーターを用いて、会話ロボットは被験者の運転に対して、安全が高まる方向に影響を与えることができるかを検証するために、実験を行った。実験における最大の関心事は、「ロボットが、運転者である被験者がこれからどのような事故リスク(歩行者の飛び出しなど)に直面するかについての、予測情報を一切述べず、運転者が危険場面を通過した際の事故的な語り掛けをするだけの制約された条件下でも、ロボットは運転者の振る舞いに影響を与えるか」という点だった。 学生層、中間層、高齢層の3つの年齢層について、併せて109名の被験者を集めた。各層は、ロボットを伴って運転をするトリートメント群と、伴わないコントロール群とから構成された。分析の結果、三つのことが分かった。第一に、どの年齢層においても、ロボットの存在は、運転パフォーマンス(ここでは衝突を起こした回数)を有意には減少させなかった。第二に、しかしながら、ロボットの存在は、学生層と中間層において、運転者の平均運転速度を有意に減少させる。これは、ロボットの存在が、安全運転を運転者に促したためと解釈された。第三に、実験と合わせて実施したアンケート調査の結果、学生層と中間層においては、ロボットの存在が心の平穏を有意に増加させ、孤独感を有意に減少させていた。第二と第三の発見を合わせることで、ロボットの存在が被験者に心理的な影響を与えるほどの擬人感を生み、それが安全運転を喚起させているというモデルの妥当性が支持された。
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