サニテーション問題は世界の緊急の解決すべき課題であり,日本の貢献が求められている.特に,都市への人口集中に伴うスラムのサニテーション問題は深刻である.本研究は,スラムから尿を農村部に輸送して肥料として利用する際の大きな障壁である,「尿の輸送コスト」低減への方策として,尿濃縮トイレの開発をテーマとし,尿の濃縮法として,無電源で運転できる正浸透法に注目し,尿濃縮過程の反応工学的解析を行うことを目的とする.なお,インドネシアのある地域で行った検討により,輸送コストを削減し,化学肥料価格以下とするためには尿を5倍程度濃縮する必要が明らかとなっている. 本研究では,尿の平均的イオン組成を参考に作成した人工尿と実際の人の尿を用い市販のFO膜を用いて実験を行った.得られた結果を整理して以下に示す: (1)尿,ならびにドロー溶液の浸透圧測定から,尿の濃縮を行う系では理想溶液としての扱いができない,すなわち,ここの成分の濃度から単純に浸透圧を推測することが難しいことが判明した.熱力学の分野で用いられている活量係数を導入し,濃度が高い溶液の扱いをすることで,浸透圧を推算することが可能となった.尿中には塩類に加え,有機物が存在している.この有機物の浸透圧に増加に対する寄与を実験的に測定した結果,尿(濃縮尿も含む)の浸透圧には大きく寄与していないことが明らかとなった. (2)正浸透の過程で尿に含まれるアンモニアや炭酸塩が膜と透過して,ドロー溶液に拡散することが明らかとなった.そこで,各イオン成分について,浸透膜内の拡散係数を定める実験も実施した. (3)活量係数を用いた浸透圧の計算法,各種イオンの浸透膜内拡散を考慮した,正浸透過程の水フラックスならびに各種イオン成分の濃度変化を記述する数学モデルを構築し,その妥当性をイオン濃度と水フラックスの時間変化の実験値と比較して確認した.
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