前年度において高濃度塩培地で増殖が確認された6株のうち増殖速度が速い2株(Oc-6、Oc-24株)を選択し、塩非添加液体培地と塩添加液体培地(塩化ナトリウム3.5%、7.0%、14.0%添加)において増殖速度を確認した。培養した大腸菌は、増殖した液体培地と同濃度の塩添加寒天培地で細菌数を確認した。また、増殖期にある培養大腸菌のRNAを抽出し、発現遺伝子の比較を試みた。 Oc-6株,Oc-24株とも3.0%塩添加液体培地より塩非添加液体培地おいて増殖速度が速く,塩耐性大腸菌であっても塩による増殖阻害が生じていることが確認された。また塩非添加培地では24時間後にコロニーの形成が確認できたが、3.0%塩添加培地においては48-72時間を要した。塩添加培養液での両株の増殖は対数増殖期の期間が短く、早い段階で増殖と死滅が均衡状態に達すると考えられた。より塩濃度が高い7.0%、14.0%塩添加液体培地では目視により若干の増殖がみられたが、培養後72時間後も寒天培地上にコロニーの形成は確認されなかった。昨年度の実験では20%塩添加培地上でもコロニー形成が確認されたが、死菌上で増殖しコロニーを形成したものと考えられる。これは細菌が培地に含まれる抗生物質の影響を回避するための戦略と同様である。発現遺伝子解析を目的として培養12時間後の塩添加培養液からRNA抽出を行った。塩非添加液体培地では解析に十分なRNAが回収されたが、塩添加液体培地では解析に十分な量および純度のRNAを得られなかった。 本研究により,環境中の大腸菌の一部は塩耐性を持つこと,そのような株は条件が整えば塩存在下でも増殖できることが確認された。これは,海域において大腸菌の見かけの減衰速度が遅くなることを示しており,海域における大腸菌の消長を解析するにあたり重要な知見である。
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