嫌気性消化プロセスに投入される原料(下水汚泥)には、リアクタ内の微生物によって分解されない不活性成分が含まれている。そのため、嫌気性消化プロセスのメタン転換率を高めるには、この成分を物理化学的に改質し、リアクタ内の微生物によって分解されるようにすればよい。この考えに基づき、不活性成分の含有比率が最も高い嫌気性消化汚泥を対象とした改質の実験をおこなった。 具体的には、フェントン反応(Fe + H2O2)によって生成するヒドロキシラジカル(OH・)により消化汚泥を部分酸化し、これを原料とした連続運転によってメタン転換を数ヶ月に亘って計測した。また、この処理プロセスの改良版として、リアクタから少量の汚泥を引き抜き、これにもフェントン処理をおこなった後にリアクタに返送するフローも検討した。原料CODを基準としたメタン転換率を性能の指標に置くと、第1のフローで14.5%の転換率が得られたことに対し、改良版のフローでは効率が31.0%に向上した。このことから、フェントン処理をリアクタ汚泥と投入消化汚泥の両方におこなうことでメタン転換性能を大幅に高めることができると考えられた。これらの結果をもとに、国際水協会(IWA)の活性汚泥モデルと嫌気性消化モデルをプラットフォームとしてフェントン処理を組み入れた数学モデルを作成した。これは、フェントン処理によって基質有機物の生物学的な加水分解反応が促進することと、不活性固形成分の一部が可溶化することを骨子としたものである。本モデルによって連続運転で得られたメタン生成のみならず、リアクタの汚泥濃度や処理水に出現する難分解性の溶解成分の濃度も精度良く計算することができた。
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