平成28年度までに行った,1道路からの道路交通騒音を環境音源とした場合について,当該道路と垂直方向に測線を設けた場合に対し,道路平行方向に測線を設けた場合をモデル解析および実測によって検討した。この場合の測定手法は,測線近傍の音源からの音は大音量であるものの移動音源であるためランダムであり,測線両端の2受音点間の受音波形に相関をもたらさないのに対し,遠方音源は小音量であるが測線から見込む移動量が小さいため,2受音点間の受音波形における相関が得られるとの仮説に基づく。 本仮説をまず,モデル解析によって検証した。モデルには新たに,遠距離伝搬において大きな影響をもたらす音線の下方への屈折現象を,欧州の騒音伝搬モデルであるHarmonoise工学モデルを参考として導入した。モデル解析の結果,本仮説に従って2受音点間に明瞭な相関のピークおよび,ピーク時刻から得られる風速は設定条件との2乗平均誤差が0.23 m/sと小さく,測定可能性が示された。 ついで,実測による実証を試みた。結果はモデル解析に反し,検証用風速計による測定値に対する2乗平均誤差が1.7 m/sと良好な一致が得られなかった。原因として,上空大気の温度成層が温度低減状態にある場合に音線がモデルの想定と逆の上方へ屈折し,遠方からの入射音が得られず相関が得られなかったことが挙げられる。一方で,温度成層が逆転状態にある場合は良好な一致が得られており,地表面反射音を含む相関波形から上空大気の温度成層の勾配の推定可能性が示された。すなわち,道路交通騒音のパッシブ計測による,上空大気センシングの可能性が示された。昨年度までに実証された道路垂直方向の測線における計測センサとのネットワーク化により,都市環境センシングの可能性が示される。
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