本研究は、在来産業の近代化が都市形成に与えた影響に関する仮説、すなわち、在来産業はA:近世には都市・村落双方の中心部において、住・工・商一体の複合的施設を拠点として、周辺村落から原材料の供給を受けながら小規模に成立し、複数の事業者が経営を行う場合もあった。B:近代化の過程で複数事業者の経営を統合、事業者も深く関与する基盤整備により住・工・商の空間的分離を達成すると共に、旧市街地・村落の郊外に中心を移動、空間的にも大規模化し、C:最終的には旧市街地・旧集落を含み込む大規模な近代都市を成立せしめ、他地域への拠点の分散化を始めるが、その本拠を移動させることは少なく、創業の地に存続し続ける傾向がある、との仮説を日本・中国の在来産業、とりわけ醸造業に着目して比較検討するものである。 本年度は、研究協力者の参加を得て、2015年5月から6月にかけての10日間にわたり、主として中国浙江省紹興市、貴州省仁懐市茅台鎮にて、現状の都市空間の調査を行うと共に、2都市の博物館等で史資料の収集を実施した。中国の在来産業でも「前店後場」と呼ばれる、住・商・工機能が一体化した複合的建築形式が成立していたことが知られているが、上記の都市ではこれらが分解しつつ近代化が図られている様子が明らかになった。 また、茅台鎮では都市規模に対して酒造業の規模が極めて大きく、都市全体にオフィス・各種工場・倉庫等が展開して占拠するような様相を示していることが分かった。これに対し紹興では、酒造業の規模が小さく、工場が郊外に移動して行ったこと、それでも本社や博物館は旧市街地の創業の地に残り続けることが判明した。
|