研究課題/領域番号 |
15K14095
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
寺内 美紀子 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (40400600)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 宿場町 / 並び家 / 建物調査 / 増改築履歴 / 増改築パタン / 増改築履歴タイプ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、長野県木祖村藪原地区を対象に「空き家になる前からの空き家対策」を具体化するため、「建物履歴を使ったテーラーメードカルテの構築と中山間地域の空き家解消プロセスの構築」することにある。 初年度は、建物履歴と住民の意向調査「藪原地区住宅カルテ」を作成した。これまで、2012年、2014年と建物調査を実施しており、その後の状況変化を踏まえて、建物調査方法を検討した。また、本調査に関して事前に村と協議し、調査内容や調査結果の保管に関して確認した。2015年6月から2016年3月までの間に4回、全42件の協力を得て、建物の増改築に関する履歴を把握している。 次に、調査結果を分析・検討するなかで、藪原地区における増改築履歴のパタンを見いだすことができた。これは、この地域で持続されるデザインコードの一種と評価でき、こうしたあり方をより積極的に改修案や改修方法に生かすことで「藪原スタイル」と呼べる地域の特色に応じた空き家再生あるいは空き家解消のプロセスの一助になると思われる。今年度は、対象117件のうち、42件のみの調査にとどまった。また、居住状態と空き家状態の比較が(空き家の立入り調査が実施できなかったため)できていない。残りの住宅の調査と空き家の立入り調査が次年度の課題である。また、改修案作成の準備として、1件の協力を得て「藪原宿建物履歴カルテ」を作成し、家族内ワークショップを開き、個人情報を多く含む調査結果のなかでどの部分を地域の住文化資料として共有化するべきか、検討をおこなった。 なお平成27年度の調査結果を、日本建築学会論文集に投稿した結果、不採用になり、新たな論文として投稿準備中である。また、平成28年8月の日本建築学科学術講演会(九州)で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始2年度の計画は、初年度の成果を学会等に発表するとともに、テーラーメードカルテの実績を増やし、改修案の作成を住民ワークショップのなかで検討することであった。建物履歴調査は全住戸117件のうち42件の調査を完了し、調査件数は全体の35%とやや少ないが、内容に関しては想定以上の結果を得ることができた。これ以外の調査物件を増やすべく、関連者に引き続き依頼を行っているが、調査できていない状況である。 他方、今年度も空き家の調査に関しては、建物増改築履歴の場合、立入り調査と持ち主へのヒアリングを両方行い、内容を一致させる必要があるため、空き家の持ち主と都合があわず現地調査およびヒアリングを進めることができなかった。調査方法の再考を見当する必要がある。 建物増改築履歴を分析・考察することから、増改築パタン、増改築履歴のタイプを見いだすことができた。開村以来のインフラの整備や経済状態、家族形態および家業の変化に応じて、増改築を複数回行っており、そのこと自体に類似性を発見できる。従って、こうした増改築のパタンや増改築履歴のタイプをこの地域がもつ住文化として共有し、デザイン手法として公開できれば、新たな住み手や使い方につながる可能性が出てくる。すがた・かたちに関するデザインコードではなく、つかい方に関するデザインコードを得ることができたと考えている。こうした結果を日本建築学会で口頭発表することができたが、査読付き論文の採用に至らず、投稿をめざして現在準備中である。 以上、総じて、今年度は計画通りに進まなかったため、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の3年目は、H28年度から引き続き研究結果の発表(学会など)に加え、「藪原地区住宅カルテ」の展開と実践的応用、空き家改修案の公開、改修案を使った住民ワークショップを行う。研究成果の発表に関しては、日本建築学会計画系論文集に投稿準備中である(昨年度不採用になり、新規作成中)。成果を地域の共有情報としていくための住民ワークショップは今年度精力的に進める予定である。カルテのサンプルデザインをつかった家族内(3世代間の家に関する意見交換)ワークショップを地域に拡充して、地区ごとの集会に提案する予定である。 また、調査が数年間継続的に行われた結果、住民には疲労もあり、建物立入り調査および、増改築履歴の資料数を増やすことになかなか協力が得られにくい状況である。調査数を増やす努力とともに、増改築パタンおよび増改築履歴のタイプを使った改修案のワークショップを先行させ、本調査の意義、結果の有効活用についての理解を深めるよう努力する。ここで、仮想改修案の作成を図面、模型、動画等で実施し、公表方法について検討する。対象地域の100~70年間のうち、大きくは店舗併用住宅であったものが住宅のみに変化しており、元の使い方に戻したいという要望も見られる。居住だけではない空き家再利用の方法をワークショップの中で提案する。 なお、ワークショップの企画など、集会の運営のための、村、地区会、地区外の有識者など協力体制をつくり、定期的な集会開催を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度、物品費において、建物調査結果をまとめるための図面作成ソフト(CAD)を購入する予定であったが、ソフト導入のパソコン台数およびOSが揃わず、計画にくらべ少ない台数導入にとどまった。また、調査件数が増やせなかったため、学生アルバイト代も計画通り進められなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額はH29年度請求額と合わせ、物品費や人件費に使用する。
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