本研究は、地方城下町における明治初頭の地籍について定量的かつ定性的に分析することによって、近代移行期における土地所有と土地利用の特性について明らかにすることを目的としている。 3年間の研究期間で、はじめの2年間は基本作業となる[史料収集][地籍データベースの作成][地籍復原図の作成]を進めてきた。最終年度は、これらの基本データの精査を行ったうえで、[GISデータの構築]を行った。[地籍データベースの作成]にあたっては、『地所取調帳』(九州大学附属図書館所蔵)を基本史料として用いた。本史料は町ごとに簿冊がまとめられ、各簿冊の執筆者によって文字の判読のしやすさが異なるため、データベースに欠落箇所があった。最終年度で精査を進め、どうしても判読できなかったものは今後の課題として残った。[地籍復原図の作成]には、「字限図」(福岡法務局所蔵)を基本史料として用いた。法務局で入手した紙媒体の複写史料から、スキャナーで画像データとして取り込みデジタル化した。「字限図」そのものに歪みがあり隣接する町を繋ぎ合わせていくことが難しかったため、現在の福岡市の地図データをベースとして、その上に「字限図」を合わせて各図の縮尺や歪みを調整したうえで、線データによる復元図を作成した。[GISデータの構築]は、試行版として一応の完成とした。GIS上で[地籍データベース]と[地籍復元図]の1筆ごとの座標を紐づけしていったが、精度に不安が残るため検証と精査が必要と考えている。 以上のように、作成データにおける精度上の課題により研究論文の発表まで至らなかったが、本研究の成果として目指した定量的分析のためのデータ構築はほぼ完了することができた。この3年間で都市史研究にGISを援用するという挑戦を試みてきて、旧図を用いることの難しさを痛感したのが正直なところであるが、方法論のひとつとして可能性はあると考えている。
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