研究課題
これまで我々は、Al系およびB系固体中の正20面体クラスターにおいて、「金属結合-共有結合転換」が起こることを提案し、実験と計算により、この概念を確立してきた。Si、Al、B等の孤立クラスターにおける「金属結合-共有結合転換」や「π結合-σ結合転換」の存在を提案し、確立することを目的とした。平成27年度の実施計画として、1)第一原理計算によるクラスターの結合性と安定性の評価を行い、併せて本研究目的と関連の深い、2)液体ボロンの結合状態の解析も行った。下記に、それぞれの研究成果について記述する。1)計算プログラムとしてGaussianを用い、基底関数は6-31G(d)または6-311+G(d)を、汎関数はB3LYPまたはPBE0を使った。クラスターの軌道エネルギーと比べる、金属結合クラスターの良い近似と考えられるWood-Saxonポテンシャルにおける電子準位を計算するため、球対称ポテンシャルにおける3次元シュレディンガー方程式を、極座標形式で計算するプログラムを作成した。典型的な金属結合クラスターであるAl13-のクラスター軌道と合うように、ポテンシャルのパラメーターを調整中である。2)液体ボロンは融点が2000℃を超えるため、ルツボを使って溶かすことは難しい。宇宙技術として開発された靜電浮遊法を使って、液体ボロンを空中に静止させ、軌道放射光(SPring-8)を使ってコンプトン散乱実験を行った結果を解析した。その結果、液体シリコン中に残っている共有結合が17%であるのに対して、液体ボロン中には66%もの共有結合が残っていることが明らかになった。シリコンの場合、固体中の4配位のsp3共有結合は、液体中で配位数が大幅に増えることにより、大部分は金属結合に転換する。一方、固体ボロン中の配位数は6配位から9配位で、液体でも配位数はあまり増えず、共有結合が残ると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
「1)第一原理計算によるクラスターの結合性と安定性の評価」に関しては、概ね順調に計算プログラムの作成が終わり、分子軌道エネルギーとの比較を行いつつある。一方、「2)液体ボロンの結合状態の解析」に関しては、予想外に解析が進み、大変興味深い結果が得られ、Physical Review Letters誌に、論文が掲載されたためである。この成果は、日経産業新聞や科学新聞等で報道され、東北大学 多元物質科学研究所 新機能無機物質探索研究センターのシンポジウムにも招待された。
今後は、「1)第一原理計算によるクラスターの結合性と安定性の評価」に関しては、作成したプログラムで計算したWood-Saxonポテンシャルにおける電子準位と、各クラスターの分子軌道エネルギーを比較することにより、結合性と安定性の評価を行う。さらに、四重極イオントラップを使い、水素化Alクラスターの創製を行う。また、固体表面上のBの一原子層(ボレン)の創製について検討を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Physical Review Letters
巻: 114 ページ: 177401-1-5
10.1103/PhysRevLett.114.177401
http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry394/