本研究の目的は,透過電子顕微鏡(TEM)において,2次元入射ビームロッキングして同時計測した電子線エネルギー損失分光(EELS)/特性X線分光(EDX)データを用い,①電子チャネリング効果による結晶サイトごとの電子状態 ②原子位置の統計ゆらぎ の2点について堅牢な定量解析法を開発することである. ビームロッキングEDXにおいては,軟磁性材料であるフェライトの複数の結晶サイトにまたがって存在するCoのサイト占有率を定量し,第一原理計算で得られる形成エネルギーの序列と概ね対応が見られた.その基盤となる入射角をスキャンしながらEDXを取得するビームロッキングモードは日本電子製ソフトウェアで問題なく動作しさまざまな材料の分析に応用できる段階である.EDXカウント数の解析には動力学的回折をブロッホ波法で考慮したEDX断面積計算コードが整備され,実験データにおける占有率を精密に規定できる段階に達した. ビームロッキングEELSにおいては,Li電池負極活物質(スピネル型結晶構造を有するMn系酸化物)の遷移金属の結晶サイト分布および価数状態を分析した.これは従来の多変量解析を実用材料分析に応用した例である. さらに,格子振動の理論的取扱いを進めるため,第一原理計算で算出できる力定数を用いたフォノン状態および格子熱伝導度の計算を進めた.派生したケーススタディとして,窒化珪素多形の格子熱伝導度の微視的調査を行った.フォノンに基づいた原子位置の揺らぎを,電子分光分析に連携させる具体的方策を検討した.
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